糖尿病と遺伝[9完] そもそも論に戻って

健康法

2003年頃から,ヒトの遺伝子解析技術が飛躍的に向上したことにより,『糖尿病有病者と正常者の遺伝子を比較すれば,糖尿病の原因遺伝子が見つかるはずだ』という考えの元に,精力的に探索が進められました. 当初は『生まれた子供の遺伝子を調べるだけで糖尿病を予防できる日も近い』という非常に楽観的な意見すらありました.

たしかに『糖尿病に関連する遺伝子』は発見されました. それも大量に.

しかし,それだけでは どうしても糖尿病の遺伝率を説明できなかったのです.

そんなに遺伝するものなのか

こうなると,そもそも 双生児の研究から割り出された『一卵性双生児における糖尿病の遺伝率は30%』という数字にも疑問が向けられます.

なぜなら 一卵性双生児であれば,少なくとも生後~小児の間は,家族の中でまったく同じ生活をするでしょう. 生まれてすぐに引き裂かれてしまった一卵性双生児という例は ほとんどないからです. とすれば,一卵性双生児は,『同じDNAを持ち,同じように育てられてきた』つまり,遺伝的素因だけでなく環境素因もよく似るので,糖尿病にかかりやすさも同じになっているにすぎないのではないかと.

そして,同じ遺伝子を持つ一卵性双生児でも,成人後の環境要因が異なれば,エピジェネティクスによって,遺伝子の発現様相が別人のように異なってしまうことからも,実は『糖尿病の遺伝支配率=30%』は過大な見積であったと思えます.

研究の出発点にも問題が

更に言えば,『2型糖尿病に関連する遺伝子』のスクリーニング方法にも問題がありました.

『2型糖尿病有病者と正常者の遺伝子を比較する』

この出発点自体が すでにおかしいのではないかと思います.
なぜなら 2型糖尿病と言っても,肥満で高度インスリン抵抗性,つまり 大量のインスリンを分泌している2型糖尿病患者と,比較的やせていてインスリン分泌が少ない2型糖尿病患者がいます. 共通しているのは『空腹時血糖値やHbA1cが高い』ということだけで,それ以外はまるで異なり,特にインスリン分泌の様相は正反対です. この2種をどんぶり勘定にぶっこんで,『正常者とどの遺伝子が違うのか』と比べても,遺伝的特徴は相互に薄められてしまうでしょう.

実際,Ahlqvist博士が 『2型糖尿病と呼ばれている人は,実は4つのサブグループに分かれる』ことを示し,

その4つそれぞれに遺伝子の特徴を調べたところ,SIRD(重度インスリン抵抗性糖尿病)の人は,従来は『2型糖尿病』に分類されていたものの,いわゆる『糖尿病に関連する遺伝子変異』はまったくみられなかったのです.

こういう例まで含めて『2型糖尿病か正常か』という荒っぽい分類で遺伝子解析を進めている限りは 答えは出てこないでしょう.


糖尿病と遺伝との関係について ここまで見てきましたが,結局 純粋に単一の遺伝子変異・遺伝子異常だけで発症する/しない が決定される MODYミトコンドリア糖尿病とは異なり,純粋に病態を定義できない『2型糖尿病』というくくりで遺伝との関係を追い求めても,永遠に答えは出てこないのではないかと思えます.

『糖尿病家系』というものが存在するように見えるのは,実は 親から子に代々受け継がれてきた環境要因(食習慣・日常活動度)によりそう見えているのではないかと感じました.

『とと姉ちゃん』
(C) NHK

糖尿病と遺伝[完]

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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