「おでこでピッ」とする非接触型体温計より、ママの感覚のほうが優秀。

「おでこでピッ」とする体温計、使ったことがありますか?

我が家にも、ガンタイプの体温計があります。
子どもが学校や幼稚園に行く前に、必ず体温を測定しなければいけないからです。

3人の子どもの体温を毎朝毎朝測るのはとても大変なので、「おでこでピッ」とする体温計はとても重宝します。

病院やデパート、スーパーなどには、サーモグラフィカメラが設置されています。
顔を近づければ、カメラが顔を認証して、すばやく体温を表示してくれます。

 

これらは、すばやく体温を表示してくれるので、とても便利です。
ですが、「本当に正確なの?」と疑問に思ったことはありませんか?

今回は、「おでこでピッ」とする非接触型体温計の精度について書きます。

ガンタイプの体温計の精度

ガンタイプの体温計と、サーモグラフィカメラとは、分けて検討されるべきでしょう。
まず、ガンタイプの体温計について考えてみます。

2014年の報告では、このように書かれています。

The accuracy of handheld infrared skin thermometers for detecting febrile individuals

Reported sensitivities were 76.8%, 89% and 91–97%; reported specificities were of 79.4%, 83%, 90% and 97–99.6%; reported PPV were of 47%, 70% and 95.2–99.3%; reported NPV were of 96%, 97% and 94.6–98.1%; reported correlation coefficients were of 0.48, 0.66, 0.837 and 0.950–0.952; reported AUROC were of 0.852 and 0.853 ± 0.051.

Three studies expressed conclusions in favor of the utilization of infrared skin thermometry, whereas three studies stated that this type of device is lacking accuracy.

報告された感度は76.8%、89%、91~97%、報告された特異度は79.4%、83%、90%、97~99.6%、報告された陽性的中率は47%、70%、95.2~99.3%、報告された陰性的中率は96%、97%、94.6~98.1%、報告された相関係数は0.48、0.66、0.837、0.950~0.952、報告されたAUROCは0.852、0.853±0.051でした。

3つの研究では、赤外線皮膚温計の使用を支持する結論が示されていますが、3つの研究では、この装置は精度に欠けると述べられています。

Non-Contact Thermometers for Detecting Fever: A Review of Clinical Effectiveness

「おでこでピッ」とする非接触型体温計に求められている性能は、「熱がないと言える力」でしょう。
熱があるかも、というときは、腋で正確に体温を測ればいいのですから。

「〇〇がないことを正しく評価できる能力」というのを、科学の世界では「感度」といいます。
「おでこでピッ」とする非接触型体温計に求められているのは、高い感度です。

上記の報告では、感度は76.8%、89%、91~97%と研究によってばらつきがありました。
感度76.8%となる状況があるのなら、「おでこでピッ」とする非接触型体温計の精度は低いです。
支持する論文と、精度が低いとする論文とで意見が分かれる理由も分かります。

別の報告も探してみましょう。

Participants: Children aged ≤ 5 years attending with an acute illness.

Interventions: Two types of non-contact infrared thermometers [i.e. Thermofocus (Tecnimed, Varese, Italy) and Firhealth (Firhealth, Shenzhen, China)] were compared with an electronic axillary thermometer and an infrared tympanic thermometer.

Sensitivity and specificity for the Thermofocus non-contact infrared thermometer were 66.7% (95% confidence interval 38.4% to 88.2%) and 98.0% (95% confidence interval 96.0% to 99.2%), respectively.
For the Firhealth non-contact infrared thermometer, sensitivity was 12.5% (95% confidence interval 1.6% to 38.3%) and specificity was 99.4% (95% confidence interval 98.0% to 99.9%).

参加者 急性疾患で受診した5歳以下の子どもたち。

介入方法 2種類の非接触型赤外線体温計(Thermofocus(Tecnimed, Varese, Italy)およびFirhealth(Firhealth, Shenzhen, China))を、電子腋窩体温計および赤外線鼓膜体温計と比較した。

Thermofocusの感度は66.7%(95%信頼区間38.4%~88.2%)、特異度は98.0%(95%信頼区間96.0%~99.2%)でした。
Firhealthの感度は12.5%(95%信頼区間1.6%~38.3%)、特異性が99.4%(95%信頼区間98.0%~99.9%)でした。

Non-contact infrared thermometers compared with current approaches in primary care for children aged 5 years and under: a method comparison study. Health Technol Assess. 2020; 24: 1-28.

私は小児科医なので、子どもを対象とした論文をついつい読んでしまいます。
急性疾患で病院を訪れた、というセッティングもイメージしやすいです。

「おでこをピッ」とする体温計の感度はイタリア製で66.7%、中国製では感度12.5%でした。

さすがイタリア製、とかそういう問題ではありません。
どちらも感度が低すぎます。
これでは、発熱の子どもを見逃してしまうでしょう。

「おでこをピッ」とする体温計は発熱を見逃す可能性があり、さらに子どもではそのリスクが増すと私は解釈しました。

サーモグラフィカメラの精度

サーモグラフィカメラならどうでしょうか。
こちらなら優秀なのでしょうか。

The accuracy of thermal scanners (infrared cameras) for detecting febrile individuals

Cho et al. reported a mean difference of −1.31°C but this was not statistically different from tympanic temperature (P = 0.316) whereas Chan et al. reported a mean difference of −3.10°C.
Reported sensitivities were 87%, 83.0–83.7%, 86% and 80.0–91.0%; reported specificities were 34–43%, 85.7–86.3%, 71% and 65.0–86.0; reported PPV were 10–11%, 1.5% and 5.7–18.4%; reported NPV were 97–98% and 99.1–99.6%; a positive likelihood of 1.33–1.53 was reported; a negative likelihood of 0.29–0.37 was reported; reported correlation coefficients were < 0.5 and 0.75–0.78; reported AUROC were 0.780–0.815, 0.922–0.923% 0.8613 and 0.78–0.96.

Four studies expressed conclusions in favor of the utilization of thermal scanners for fever detection,10,13,22,24 whereas one study stated that this type of device is unsuitable for this purpose due to a high proportion of false positives.

サーマルスキャナ(赤外線カメラ)による発熱者の検出精度について

Choらは平均-1.31℃の差を報告したが、これは鼓膜温との間に統計的な差はなかった(P = 0.316)一方、Chanらは平均-3.10℃の差を報告しました。
報告された感度は87%、83.0〜83.7%、86%、80.0〜91.0%であり、報告された特異度は34〜43%、85.7〜86.3%、71%、65.0〜86.0であり、報告された陽性的中率は10〜11%、1.5%、5.7〜18.4%であり、報告された陰性的中率は97〜98%、99.1〜99.6%でした。正の尤度は1.33~1.53、負の尤度は0.29~0.37、報告された相関係数は0.5未満と0.75~0.78、報告されたAUROCは0.780~0.815、0.922~0.923%0.8613、0.78~0.96でした。

4件の研究では、発熱検出にサーマルスキャナーを使用することに賛成の結論が示されたが、1件の研究では、この種の装置は偽陽性の割合が高いため、この目的には適していないと述べています。

Non-Contact Thermometers for Detecting Fever: A Review of Clinical Effectiveness

偽陽性の割合が多いのは、あまり気にしなくていいと私は思っています。
サーモグラフィカメラが発熱者を検知したとき、腋で体温を測りなおせばいいだけです。
手間がかかり、面倒でもありますが、検温とはそもそもそういうものです。

私が気にしているのは、やはり感度です。
サーモグラフィカメラの感度は87%、83.0〜83.7%、86%、80.0〜91.0%でした。
ないよりはあったほうがいいですが、十分な精度とはいえないと私は解釈しました。

状況に応じて使い分ける

ガンタイプの体温計にせよ、サーモグラフィカメラにせよ、その精度は十分といえません。
特に、家庭用の「おでこでピッ」とする非接触型体温計は、Thermofocusで感度66.7%、Firhealthで感度は12.5%と、正直言ってかなり信頼できない精度でした。

では、「おでこでピッ」をしないほうがいいのでしょうか。

私は、状況に応じて使い分けるべきだと思います。
なぜなら、事前確率によって、陰性的中率が大きく変わるからです。

たとえば、お子さんが元気そうなとき。
これは「おでこでピッ」で十分です。

逆に、元気がないときや咳鼻水が強いときは、わきの下で測る体温計を使いましょう。

また、お母さんが子どもの背中を触って「熱い気がする」と思ったときも、わきの下で測る体温計を使いましょう。
マザーズタッチといって、お母さんは子どもを触っただけで子どもの発熱を察知できるのです。
The accuracy of mother’s touch to detect fever in children: a systematic review. J Trop Pediatr. 2008 Feb;54(1):70-3.

マザーズタッチの精度は、感度89.2%です。
「おでこでピッ」の体温計より、ずっと高い精度です。

このテーマは、あまねくらぶでも紹介されています。

6分ほどの動画ですが、くすりと笑えるところもあるので、ぜひ見てあげてください。
(「パパはないんですか?」という直球の質問に、私も一応調べたんですけど、やはりなかったですね)

まとめ

  • ガンタイプの体温計にせよ、サーモグラフィカメラにせよ、正確さに欠けます。
  • 元気なときは、これらの非接触型体温計で十分です。
  • 調子が悪いときは、わきで測りましょう。
  • お母さんは、ガンタイプの体温計よりも優秀です。

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また、本記事の内容はAERA.dot様の取材でもお答えしました。

Source: 笑顔が好き。

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