研修医になったばかりのときの話。
入院中の患者に糖尿病があることが判明した。
投薬治療が必要ということになり、指導医より血糖降下薬の処方を指示された。
自分は患者にその旨を説明しに行ったが、なんと投薬を拒否されてしまった。
これにはとても驚いた。
当時の自分は治療を拒否されるなんてことは、まったく想定していなかったからだ。
こちらの言うことをまったく聞いてくれない患者が時々いる。
今回はそんな患者の話。
100%の信頼は正しいか?
話をよく聞いてみると、「以前も高血糖を指摘されたことがあり、その時は運動と食事改善のみで改善した」と。
今回も必ず下がるはずだと訴える。
しかしもはや食事や運動でどうにかなる段階ではない。
患者のためを思って説得を試みたが、まったく聞く耳を持ってもらえなかった。
自分は「患者のためを思って言っているのに!」「なんで信用してくれないんだ!」とやるせない気持ちになった。
そんなときに精神科医・春日武彦先生の書籍に出会った。
「治らない」時代の医療者心得帳―カスガ先生の答えのない悩み相談室
>>治療法がない病気をどうみるか 【医学書評】「治らない」時代の医療者心得帳
春日先生は100%の信用よりも、70%くらいの信用の方がまともだと言われている。
多くの患者さんは医者のことなんかせいぜい7割程度しか信用していないと見るべきでしょう。あまりにも信頼を寄せられ、頼りきられるよりも、そんな淡い関係のほうがまともです。
特に慢性疾患の治療は長期戦であり、病気を受け入れるためのプロセスを経る必要がある。
その過程は反抗期のようなものだという。
外来へ通院するということには、治療行為のほかに、患者さんなりに自分の病気をいかに受け入れつきあっていくのか、その方法を学んでいくプロセスといった意味合いがありましょう。
医者に反発することも患者の成長のために必要な過程である、というのが春日先生の考え方。
プロセスの途中では医者のやり方を疑ってみたり、民間療法に惹かれてみたり、そういった一連の試行錯誤を経るのです。
「反抗期のないまま大人になった人間にロクなやつがいない」ようなものかもしれません。
自己判断や失敗も含めて成熟過程にある存在だと考えたい。
この考え方がすごく腑に落ちたのを覚えている。
皮膚科医になった後も、ステロイドの外用を拒否したり、民間療法に入れ込んだりする患者に遭遇することも多いが客観的にみることができるようになった。
気長に付き合っていこう、と。
患者思いは正しいか?
また春日先生は医療者の「あなたのためを思って」という感情に対して警鐘を鳴らしている。
一見患者思いに見えるが、実質は違う場合が多いという。
そこには他人を思い通りに操作して満足感を得たいという願望が隠されている。
春日先生はそれを「コントロール願望」と呼んでいる。
人間の業においてもっとも厄介なのは、他人を思い通りに操作して満足感を得たいというコントロール願望です。
優しくしたり、説得するという行為には、自分のコントロール願望を満たしたいという気持ちが伏在していることを自覚しておくのが賢明です。
医療者をはじめ福祉や看護に携わっている人は、熱心かつ誠実なほどコントロール願望を露骨に発揮してしまうようです。「あなたのためを思って」と。
あくまでも一定の距離間を持って患者と接するのが、正しい医療者の姿勢なんだと思う。
思い入れの強すぎる医療者は危険。
思い入れの強すぎる医療者は危険です。自分と他人とはまったく別な存在であることを前提に、あくまでも治療契約を介して応援をはかるといった姿勢こそが誠実なのだと思います。
「患者のために」と周りが見えなくなりそうなときは、一度立ち止まって冷静に考えてみたい。
それはホントに患者のためなのか…と。
他人をコントロールする楽しみを糧として生きている医者はけっこうたくさんいるような気がします。
Source: 皮膚科医の日常と趣味とキャリア
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