【この記事は 第65回日本糖尿病学会 年次学術集会に参加したしらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞き間違い/見間違いによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】
今回の学会では,教育講演とシンポジウムとで,糖尿病神経障害の基礎から最新情報まで まとまった解説が行われたので聴いてみました.
教育講演(専門医更新のための指定講演)13
『糖尿病性神経障害診断と治療のフロー』
シンポジウム23
『糖尿病性神経障害~基礎と臨床の融合を目指して~』
S23-1 糖尿病性神経障害overview
S23-2 痛覚閾値検査(PINT)とビッグデータによる小径神経障害の機序の解析
S23-3 糖尿病性神経障害の治療の進歩
S23-4 糖尿病性神経障害の診断・評価法の進歩
S23-5 自律神経障害Update:心血管自律神経障害の探索
糖尿病性神経障害とは
糖尿病で高血糖が持続,又は 激しい血糖値変動があると,血管の内皮細胞は次第に壊れていきます. そして細い血管ほど早期に損傷していきます. 細い血管は,血管内面の表面積が相対的に大きいからです.神経細胞も細胞の1種ですから,栄養・酸素供給のために血管が寄り添っています. 神経が細ければ,神経血管も細くなり,したがって細い神経ほど早期に障害が発生します.
神経線維には 鞘に包まれた『有髄』神経と,鞘を持たない『無随』神経とがありますが,どちらも神経血管から栄養・酸素が供給されなくなると,死滅して神経作用を喪失します[下図 右].
脊椎から出発した神経は全身に張り巡らされています. 脊椎から遠くなるほど 神経は細く枝分かれしていくので,糖尿病神経障害は,脊椎から『遠いところから』『左右対称に』発生します.
足のつま先は もっとも脊椎から遠い距離にありますから,糖尿病神経障害は,通常 両足の足先から始まります.
糖尿病性神経障害の症状
疼痛
神経障害の初期には,ごくわずかな知覚障害,あるいは しびれが切れたようなピリピリとした痛みです. しかし 進行すると針でズブズブと刺されているような耐え難い疼痛になります.そして神経障害の進行とともに,足先→足全体→脛 からついには下半身全体が疼痛に襲われます.
発汗障害
感覚神経が正常に働かなくなるので,体温調節のための発汗が正常に行われなくなります. 汗が出ないため 皮膚は乾燥して,次第に かかとのように固くなっていきます.
自律神経障害
更に進行すると感覚神経障害だけでなく自律神経障害や男性器勃起不全(ED)など,障害があらゆる面に広がります.
自律神経障害で特におそろしいのは,心血管自立神経障害です.安静時でも脈拍が異常に速くなります. 糖尿病になるまでは正常だった安静時の脈拍が,糖尿病進行と共に 常時90以上になるほど心血管自立神経障害が進行した場合,心疾患生存率が有意に低下します.
治療
教育講演 及びシンポジウムでは 診断法と並んで治療法も解説されましたが,疼痛にはプレガバリン(リリカ カブセル)などの対症治療薬はあるものの,根治療法はありません.
したがって早期に(糖尿病と診断される前の耐糖能異常の段階でも)神経異常があれば治療を開始することがベストです.
診断方法は神経伝導度測定やアキレス腱反射などですが,いずれも太い神経に障害が発生した段階で検出できるものですから,末梢の細い神経の障害発生を検知するには力不足です.
初期段階では,もっとも鋭敏で簡単な診断法は 『ピン プリック(pin prick)試験』です. 竹串又は爪楊枝で足先を軽く突いて,目隠しされた被験者に 尖った方か 尖っていない方か を当てさせるという方法です.
[続く]
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
コメント