私の食物アレルギー診療の実際その3「診断」。

食物アレルギーの「診断」はどうやってするのでしょうか。

食物アレルギーの診断は、次の2点を証明することで確定する。
① 特定の食物により症状が誘発されること。
② それが特異的IgE抗体など免疫学的機序を介する可能性があること。

食物アレルギー診療ガイドライン2016 p81

とてもシンプルな診断法です。
ですが、ちょっと難しく感じる方もおられるでしょう。

簡単にいえば、「明確なエピソード」と「感作」の2つで診断されます。
明確な……? 感作……?と思いますよね。
全然簡単になってないと思いますよね。

今回は、食物アレルギーの診断について、エビデンスと分かりやすさという視点で書きます。

プリックテストというin vivo検査

これは私の腕です。
4年前、人生初めてのプリックテストを自分自身にしたときの写真です。
ちなみに私は一応成人なので腕にしましたが、小さい子どもでは背中にします。

プリックテストのエビデンス

プリックテストのエビデンスを紹介します。

  • プリックテストの陰性的中率は95%以上、ただし1歳未満では偽陰性がある1)
  • プリックテストは卵とピーナッツに関しては高感度だが、生後6か月未満でしばしば陰性2)
  • 10万分の521人に有害事象3)

1) Sampson HA. Food allergy. Part 2: diagnosis and management. J Allergy Clin lmmunol 1999; 103: 981-9.
2) The diagnostic value of skin prick testing in children with food allergy. Pediatr Allergy Immunol. 2004; 15: 435-41.
3) Skin prick tests may give generalized allergic reactions in infants. Ann Allergy Asthma Immunol. 2000; 85: 457-60.

プリックテストは「特定の抗原に対する特異的IgE抗体の産生能」を検出します。
この「特定の抗原に対する特異的IgE抗体の産生能」というものが「感作」です。

つまり、プリックテストは「感作」を検出する検査です。
感作を検出する検査としては、血液検査も有名です。

「感作」があればアレルギーなのか

「感作」があればアレルギーなのでしょうか。
もちろん、違います。

「感作」があれば、食物アレルギー診療ガイドライン2016の記述における「特異的IgE抗体など免疫学的機序を介する可能性がある」といえます。
しかしこれだけでは食物アレルギーの診断には至りません。

食物アレルギーの診断は、次の2点を証明することで確定する。
① 特定の食物により症状が誘発されること。
② それが特異的IgE抗体など免疫学的機序を介する可能性があること。

食物アレルギー診療ガイドライン2016 p81

まだ①の「特定の食物により症状が誘発されること」という要素がないためです。

明確なエピソード

卵アレルギーを疑っているケースでもっとも明確なのは「卵を食べれば症状が出るが、卵を食べなければ症状が出ない」というエピソードです。
いっぽうで「卵を食べても大丈夫なときがあるし、卵を食べなくても症状が出るときがある」では卵アレルギーではないように感じます。

また、どんな症状が出たのかも大切です。

当院での明確なエピソードはこのように定義しています。

  • 初めてまたは増量中の食物摂取後に、明らかなじんましんや全身性の紅斑が出現した場合。
  • 初めてまたは増量中の食物摂取後に、呼吸器症状と消化器症状が同時に出現し、数時間以内に消失した場合。

不明確なエピソードは次のように定義しています。

  • 症状が口周囲に限局した場合。
  • 呼吸器または消化器症状が単独で出現した場合。
  • 以前に食べて問題なかった場合。

いろいろ書きましたが、ポイントは「口周囲の症状」だけでは明確なエピソードとしない点です。
口周りは食事中にいろいろな刺激を受けますので、接触性皮膚炎として赤くなることもあります。

当院の食物アレルギー診断(5か月以上1歳未満)

当院における乳児(5か月以上1歳未満)の食物アレルギー診断を表にしました。

エピソード プリック 説明と対応
明確なエピソードあり 診断確定。
負荷試験し、必要最小限の除去へ。
明確なエピソードあり 診断保留。食べ進め方を指導する。
不明確なエピソードあり 診断保留食べ進め方を指導する。
不明確なエピソードあり アレルギーの可能性は低いと説明。
自宅で通常通りに食べ進める。
エピソードなし(未摂取含む) 診断保留食べ進め方を指導する。
エピソードなし(未摂取含む) アレルギーの可能性は低いと説明。
自宅で通常通りに食べ進める。
十分量を摂取済み アレルギーの可能性は低いと説明。
自宅で通常通りに食べ進める。
十分量を摂取済み アレルギーの可能性は低いと説明。
自宅で通常通りに食べ進める。

診断がつくのは「明確なエピソード」とプリックテストによる「感作」の両方が確認できたときだけです。
そして診断したときは食物経口負荷試験を行い、必要最小限の除去を行うようにします。

いっぽうで「診断保留」というワードが出てきます。
「診断保留」とは、食物アレルギーとはまだ診断できないけれど、否定もできないという状態です。

「診断保留」の場合、食べ進め方を丁寧に説明し、場合によっては段階的な食物経口負荷試験を提案します。
「診断保留」の状態は長くても6か月間と当院では設定しています。
6か月以内に多くの子どもが「アレルギーではない」ことが判明し、残りの子どもは食べ進めているまたは経口負荷試験で「明確なエピソード」が出現し「アレルギーである」ことが判明します。

「診断保留」の状態はだらだらと長くしないことが大切だと私は思っています。
基本的に6か月以内に、アレルギーなのか、そうでないのか、しっかり診断します。

プリックテストの利点

私は1歳未満の乳児の「感作」を確認するとき、基本的にプリックテストを使用しています。
当院のプリックテストの結果(5か月以上1歳未満)を1.5年分収集し解析してみたところ(56例)、プリックテストの感度は卵・牛乳・小麦いずれにおいても100%でした。
Sampsonらが報告している通り、プリックテストには高い感度がありそうです。
そして、その感度は1歳未満でも高いと感じます。

プリックテストには他にも良い点があります。
以下にまとめます。

  • In vivo検査は、視覚情報に訴えるので分かりやすい。
  • 保護者のコンプライアンスが上がる(ような気がする)。
  • 感度が高い(プリックテストが陰性だったとき、食物アレルギーが否定される)。
  • 痛くない。
  • 遅延反応があれば、食物アレルギーの関与する乳児アトピーの参考所見になる。

ただし、プリックテストは感作の推移をみるには適していないように私は感じます。
食物アレルギーと診断したケースでは、私は6か月おきに血液検査をするようにしています。
血液検査は数値で出るので、前回と比較しやすいためです。

まとめ

  • 丁寧な問診から「明確なエピソード」を見出す。
  • プリックテストまたは血液検査によって「感作」を確認する。
  • 両方そろえば、食物アレルギーと診断する。
  • 両方そろわないが疑わしいケースでは、「診断保留」とし、6か月以内に診断確定させる。

上記が私の食物アレルギーの診断です。
子どもの食物アレルギーの大部分が即時型でIgE依存型ですので、おおむねこの通りで診断できます。

ただし、非即時型や非IgE依存型の食物アレルギーではこの診断手順は異なる手順で診断されます。
また、「感作」があるのかないのかははっきり分かりやすいですが、「エピソード」が明確なのか不明確なのかはとても難しいです。
くれぐれも自己判断しないようお願いします。

なお、「心構え」と「予防」についてはこちらです。

私の食物アレルギー診療の実際その1「心構え」。

2019.05.30

私の食物アレルギー診療の実際その2「予防」。

2019.05.31

Source: 笑顔が好き。

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