11β-HSD1阻害薬[1] ホルモンはややこしい

健康法

11β-HSD1阻害薬とは,副腎皮質ホルモンであるコルチゾン/コルチゾールに作用する『11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素』を阻害する薬です.つまり相手はホルモンです.もうこの段階で頭痛がします.

ぞるばは 従来から『ホルモンはややこしいから』と敬遠してきました.
その理由は以下のとおりです.

ホルモンがややこしい理由[1] 分泌が3段階制御だったり

ホルモンを分泌する器官はそれほど多くはありません.脳下垂体,(副)甲状腺,副腎,膵臓,生殖腺などが主なものです.しかし,ホルモンが他の生理活性物質と際立って異なるのは,その分泌が単純ではないことです.

副腎皮質ホルモンの一つであるコルチゾールの例ではこうなっています.

脳のイラスト(C) ミツキ(MiMi)さん/腎臓と副腎イラスト (C)acworksさん

副腎皮質ホルモンは,名前の通り 副腎皮質から分泌されるのですが,実はその分泌は,脳の下垂体前葉から指令されているのです.そして 下垂体前葉もまた視床下部の命令で動いているにすぎません.つまり3階建て構成で分泌されます.この視床下部(Hypothalamus)-下垂体(Pituitary)-副腎系(Adrenal)という3階建ての命令体形は,その頭文字をとって HPA軸(HPA Axis)と呼ばれます.

なぜこんなことになっているのでしょうか? それはホルモンというものは きわめて効き目が強いので『不足せず,しかし出し過ぎず』と 必ず最適量になるようフィードバックがかかっているからです.これを確実にするために,上記の例でいえば最下位の副腎皮質から分泌されるコルチゾールが多くなると,上位の分泌器官に抑制作用を,つまりブレーキをかけるようになっています.

ホルモンがややこしい理由[2] ごく微量で強力な作用だったり

ホルモンの分泌が3段階でしかも複雑なフィードバックが仕組まれているのは,ホルモンの濃度を きわめて微量かつ精密に一定に保つ必要があるからです.
ホルモンの血中濃度がどれくらい低いかは.以下の例がわかりやすいでしょう.

糖尿病診断基準の空腹時血糖濃度 126mg/dlですが,この単位をモル表示すると 7mmol/l,つまり 10-3 モルです.

血中クレアチニンの基準濃度は 0.3-1.2 mg/dl です.これをモル表示すると 20 -100 μmol/l,つまり 10-6 モルです.

空腹時の血中インスリンの濃度は 2~10 μU/mlですが,これは モル表示すると 14~72 pmol/l,つまり 10-12 モルです.

ホルモンであるインスリンがいかに低濃度であるかがよくわかります.血糖値の10億分の1の濃度です. 普段はこんなに低い濃度なのですから,インスリンが急に10倍になったりしたら,低血糖に陥り 時には命にかかわるという強力な生理作用を持っているのです.

ホルモンがややこしい理由[3] メンタルにも影響したり

この記事でも取り上げたように,ホルモンは 単に 血圧・血糖値・体温などといった人体の物理的状態に影響するだけでなく,精神面・感情面も大きく作用します. アドレナリンは攻撃的感情を高めますし,セロトニンの不足はうつ病の一因と言われています.
むしろ感情に影響を与えないホルモンの方が少数派でしょう.

ホルモンがややこしい理由[4] 全身ネットワークがからんでいたり

ホルモンは単機能ではありません.通常 複数の臓器において,多くの生理作用を発揮します. 今回 とりあげる副腎皮質ホルモンの一つ=コルチゾールは,全身の 糖代謝・脂質代謝・蛋白質代謝,つまりすべての栄養素の代謝を制御しています.これだけ影響の大きいホルモンなので,暴走・破綻が起こらないように,全身の神経系・内分泌系を総動員する相互ネットワーク(Metabolic Information Highway )によっても制御されています.


まだまだありますが,もうここまでで『ややこしい』理由としては 十分満腹ですね.しかし このように影響範囲が広く強いことこそ,まさに11β-HSD1阻害薬が広範な疾病に有効な薬になると期待されている理由でもあるのです.

せっかく 酵素に作用するグルコキナーゼ活性化薬もとことん調べたのですから,もうお好み焼きを食った勢いでモダン焼きもたいらげるように,ホルモンに作用する薬=11β-HSD1阻害薬についても調べてみようと思います. 多分どこかでコケますが.

[続く]

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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