がんは、きれいごとじゃない。

がんは、きれいごとじゃ済まされない

心も蝕まれ、
治療も簡単なことじゃない

頑張っても頑張っても先が見えない

そんな状況に、時々疲れる

「前向きにね」

と、ひとは言う

そんな慰めさえ、つらくなる

明るく振る舞っているひとを
羨ましく思う

「がんになったのに、
　なんであんなに明るくなれるの？」

と、思う

元気に振る舞っているひとを
羨ましく思う

「がんになったのに、
　なんであんなに元気なの？」

と、思う

いや、やっぱり羨ましくは思えない

だって、自分はそうはなれないから

「私、前向きに頑張ってます」
という言葉には、

「こんなに落ち込んでいる自分は
　ダメ人間なのかな」

と、思う

誰かと比較をするのはよくないこと

他人は他人、
自分は自分

わかっていても、
誰かのいいところと
自分の悪いところを比べたがる

みんなそれぞれに、
いいところはいっぱいあるはず

なのに、悪い部分を探してしまうのだ

だから、
そんな前向きな言葉でも、
明るい姿勢でもなく、
知りたいのは本音

がんを経験した人たちが、
どんな心の状態に陥り、
どんなに泣いてきたのか

そこにある心の闇だ

頑張らなければならないのは、
誰だって知っている

前向きに生きなければならないのは、
誰だってわかっている

が、そんなに簡単にはいかない

せっかく助かった命

手術をして悪いものも取った

薬の力を借りて、
身体の中のがん細胞もやっつけている

なのに、心の片隅に
「死にたい」という思いが湧く

がんと闘うのがつらくて、
副作用がしんどくて、
いつしかがん告知を受けたときの、

「死にたくない」

という思いさえ薄らいでゆく

それほどがんと闘っていくのは、
簡単じゃない

がんと向き合っていくのは、
容易いことじゃない

がんとつきあっていくのは、
根気がいる

その先に、“完治”があればまだいい

これほどまでに闘っても
再発の可能性が残されている

「がんを受け入れられない」

そういうひとも少なくない

でも私は、
“手術もして、つらい治療も受けている”

それだけで、
受け入れている気がするのだ

検査で乳がんがみつかったある女性

手術の日も決まっていた

が、当日、彼女は病院に現れなかった

おっぱいを切り取ることも、
治療で髪が抜けることも、
きっと受け入れられなかったのだと思う

半年後、救急搬送された彼女は
その後、亡くなった

．．．いや、彼女は、
乳がんを受け入れられなかったのではなく、
死を受け入れていたのかもしれない

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Source: りかこの乳がん体験記