ウィズコロナの先へ

内科医

 ゴールデンウィーク明けに新型コロナ感染症の位置付けが予定通り 2類から5類に格下げされ,季節性インフルエンザとほぼ同じ扱いになりました.
 自宅療養も義務ではなく,濃厚接触者の洗い出しや保健所への報告義務もなくなりました.検査も公費扱いは終了し,通常の保険診療扱いとなりました.

 感染者数は定点観測で適宜報告されていますし,当院でも相変わらず陽性者が出ますが,もうすっかり日常の出来事の一つとなってしまい,マスコミもすっかり興味を失ったようです.

 中等症以上の人に使うパキロビツトやラゲブリオ,ゾゴーバといった抗ウィルス薬はさすがに高額なので今は公費扱いですが,それも今年9月で終了です.
 特例承認されていたこれらの薬は処方するのに面倒な手続きが多くて大変だったのですが,それも簡略化され他の薬とほぼ同じように処方箋一枚で処方できることとなりました.

 街中ではまだまだマスク着用の人が多いですが,それでも最近は気温が上昇してきたことも手伝ってか,かなりの人がはずすようになり,当院でも咳や発熱がある患者さん以外は任意としました.

 神戸の街も人出が明らかに多くなってきて賑わいを取り戻しており,国内外からの観光客も増えているようです.車で出かけても以前と違い明らかに駐車場が混んでいるのがわかりますし,飲食店もお客さんが戻ってきているようです.

 ただ,当院を利用されている飲食店関係者やクラブやスナックのママさん等現場の声を聞くと,まだまだコロナ前の状態には程遠いとのことです.
 何よりもその原因は,コロナ感染そのものへの懸念ではなく,特に夜間の外食の機会が減ってしまったことのようです.

 このコロナ禍はくしくもオンラインによる在宅ワークを普及させ,無駄な通勤や会議や残業がなくなり,労働者の心身への負担軽減や生産性の向上という有益な面を生み出しました.
 しかし,けれどもこのことが必然的に,職場の人間関係の潤滑剤とされてきた仕事後の会食の機会を激減させたということです.
在宅勤務ができない職種についても,いったん会食をなくしてしまうとそれが普通になってしまい,それでも仕事に何の支障もない,むしろプライベートな時間が増えて精神衛生上もメリットを感じる人も増えたようです.

 もっとも,そもそもこのような習慣は先進国の中でも日本だけのようです.
 私が米国に住んでいた時も,仕事後の飲み会などは特別の場合を除いてほとんどなく,誰しもがプライベートを大切にしてさっさと帰宅していました.クリスマスや歓送迎会などのパーティはよくありましたが,それは家族ぐるみで参加するようなことがほとんどで,仕事の話などは抜きでした.

 結局コロナ禍をきっかけに,人々はワークライフバランスの重要性に気づいたり,自分や家族の人生について深く考えるようになったのだと思いますし,この流れからはもう後戻りはできないと思います.

 今回のコロナ禍は国民の疾病構造にも変化をもたらしたとのこと,こんな小さなクリニックでもそのことを感じます.
 当院ではゴールデンウィーク明け頃からやたらと呼吸器疾患が増えています.
 呼吸器科も標榜していることもあってか,とにかく長引く咳の患者さん,喘息やそれが悪化した患者さんが毎日のように何人も来院,おそらく先月1か月だけでも50人は下らず,コロナ禍の真っ最中とエライ違いです.もちろん中には新型コロナも季節外れのインフルエンザもいますが,むしろそれ以外の方が大半です.

 コロナ禍での長いマスク生活は,インフルエンザはもちろん風邪や気管支炎など通常の呼吸器感染症にも罹患する機会を激減させましたが,そのことが自然感染による免疫獲得の機会を奪い,その影響がマスクを外しだしてから一気に現れたのではないかと思います.
 最近小児科でアデノやRSなど複数の感染症に同時罹患しているケースが増えているのもうなづけますし,もともと気管支喘息があったような人は,こういった呼吸器感染症を機会に悪化しやすくなると考えれば説明できます.
 
 我々の生活や仕事のスタイル,疾病構造,健康意識,そして人生観,死生観といった我々の行動規範にまで,このコロナ禍はとてつもなく大きな影響を及ぼしたようです.
 これが人類にとって吉と出るか,凶と出るか,神のみぞ知るというところでしょうか.
 100年前のスペイン風邪のパンデミックを回顧する我々のように,100年後 ,22世紀初頭の私たちの子孫が今の時代を振り返ってどう感じるか,とても興味のあるところです


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Source: Dr.OHKADO’s Blog

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