【この記事は 第66回 日本糖尿病学会年次学術集会を聴講した しらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞きまちがい/見まちがいによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】
『日本にはまともな栄養学と呼べるものは存在していない』
本年の糖尿病学会で,データ栄養学の権威 東大 佐々木敏教授が2回も発した 強烈な一言です.
佐々木教授は 本年3月で 東京大学 大学院医学系研究科 社会予防疫学分野教授を退任されました. そして退任記念の最終講義(3/25)の講義タイトルはこうでした.
『栄養学を科学にしたい』 この初心は成就したか?
私はこの最終講義は聴講できませんでしたが,このタイトルからみて やはり 学会講演と同じことを述べられたのでしょう.
佐々木教授のこの指摘はいわれのない中傷なのでしょうか?
日本には『栄養』を名称に冠する学会がたくさんあります.ざっとググってみただけでも;
日本病態栄養学会
日本臨床栄養代謝学会
日本臨床栄養学会
日本栄養・食糧学会
日本スポーツ栄養学会
日本脂質栄養学会
日本時間栄養学会
日本外科代謝栄養学会
日本リハビリテーション栄養学会
日本健康体力栄養学会
おそらくもっとたくさんあるでしょう.これだけの学会が存在しているのに,『日本には栄養学が存在しない』とはどういう意味なのでしょうか.
世界へのインパクト
そこで内閣府のこの資料を調べてみました.
2005~2009年に世界で発表された7,695本の栄養学研究論文を国別・施設別にまとめた報告です.
動物実験であれば日本の栄養学論文数(162本)は,米国(521本)に次いで2位でした.
しかし これがヒトを対象として行った栄養学論文となると,1位の米国(1,591本)には はるかに及ばない9位(195本)なのです.
さらに 論文の筆頭著者の所属機関を見ると,1位は米国のハーバード大学で,以下 欧米の研究機関が続き,日本はようやく46位に国立健康・栄養研究所,114位に東北大学,129位に徳島大学が登場するのみです.
つまり日本の研究機関は,査読のある栄養学専門誌にはほとんど論文を発表できていないのです. 論文は提出しているのかもしれませんが,一定のレベルに達していないと判断されれば,受理(Accept)されません.
実際,インパクトファクターの高い Nutrition など海外の栄養学専門誌で日本人の論文はほとんどみかけません.
日本の栄養学
歴史的経緯を見ると,日本の栄養学は 戦前までは 決して世界から遅れてはいませんでした.
日本栄養学の祖,佐伯 矩(さいき ただす)博士は,1914年(大正 3年)世界に先駆けて『栄養研究所』(現 「国立健康・栄養研究所」)を設立しています.
さらに香川 綾(かがわ あや) 博士は1933年(昭和8年)『家庭食養研究会』(後に「女子栄養学園」→現在の「女子栄養大学」となる)を設立し,1935年には『栄養と料理』を創刊しています.
当時の世界基準からみても,決して遅れてはいなかったのです.
[続く]
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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