先生、もう僕は他界します。

医療機関

お昼訪問の途中お電話があった。

 

先生、もう僕は他界します。

放っといてください。そういうことなんで。

 

朝、お電話で掛けてきて頂いた時はこうだった。

 

先生、もう僕は殺されます。病気に殺されます。

なんの役にも立たない人間なんで。それで良いんです。

殺されないようにする対策なんて、作れないでしょう?

それを作るプロの皆さんは、いまだに対策してくれない。

至急会議でもなんでも開いて、対策を打ってくださいよ。

 

 

朝のお電話の時は、

もう殺されると思うんですね。と繰り返した。

 

そして、お昼。

少し家出をされていた彼から冒頭のお電話。

 

他界しようと思っておられるんですね。

今朝の殺されるお話と他界したいお話。

もう少し、お聴かせくださいませんか?

 

訪問の途中、自動車を路肩に停めて、

奥さんがお家に連れ戻しに迎えに来られるまで、

お電話で、他界したいお話を伺った。

 

彼は、現代の医療では根治できない癌を患われている。

化学療法は続けているが、生活の質という点からも、

彼や父親としてという点からも、仕事人としてという点からも、

自分自身の役割がなくなってきている現実を憂いていた。

この憂いは、おそらく、病気が見つかってからずっと。だ。

 

在宅医療は、未だ誰も救えていない。思い上がってはいけない。

ちょろっとコロナを診に行ったり、たまにお看取りしてみたり。

そんな程度で、肝心の病気を治せたか?!って言うと自信がない。

彼のこの苦しみを少しでも緩和できてこそ、ザイタク医療を語れる。

 

 

今日も、彼の人生を自分事として考え

思いを馳せ、グルグル頭を巡って、

結局、出た答えは来週の恒例の第4週月曜日、

リビングウィルカフェの日だってことぐらい。

 

前回は、オーバーオールの会。ハッピーバースデー。

今回は、エプロンの会と題して、流し素麺をしてみよう。

エプロンは持参いただき、流し素麺の機械はアマゾンでポチっと。

 

その日、彼と一緒にリビングウィルノートと向き合ってみたい。

 

医療は病気との戦いだが、

もしも、もしも、もしも、

その病気が治せず敗北しても、

そこに医療は残ってもいいものか。

 

この永遠の命題に、真摯に、謙虚に、向き合いたい。

 

今こそちゃんと、あきらめず、

リビングウィルと向き合えば、

僕はまだ間に合う気がしている。

 

良かったら聴いてください。

 

 

 

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Source: 兵庫県三田市の在宅療養支援診療所「たなかホームケアクリニック」

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