よく見る夢の中に、
“引っ越し”というものがある
どこか知らない、
アパートのような一室に入居するのだ
この数年、あまり見なくなっていたのだが、
今朝方、
久し振りにこの手の夢を見てしまった
そう
“見てしまった”というくらい、
いつもなんとなく、
すっきりしないシナリオなのだ
『“違う部屋に住む”ということは、
新天地を求めているのだろうか...』
そんなことを考えていると、
ふと、母のことが頭に浮かんだ
母が亡くなってから、4年7か月
私の乳がんより2週間早くみつかった、
母の甲状腺がん
手術から5年後、肺に転移し、
亡くなる直前には小脳にも転移をしていた
そして治療法なく、その命を落としたのだ
母が亡くなったあの日から、
母を思い出さない日はなかった
が、今では思い出さない日も増えた
それがいいのか、悪いのか...
『ひとは、忘れる生き物である』
“すべてを覚えていると、ひとは生きていけない”
そう聞いたことがある
確かに、“忘れたい過去”は
数えきれないほどあるものだ
今日の母は、棺に眠っていた
最後に上がったステージ衣装を身に纏い、
きれいに施した化粧で納棺された母
亡くなったとき、
病院のベッドで私がしてあげた化粧だ
その時、父が呟いた
「首の傷...」
母に目を遣ると、衣装の襟ぐりから
甲状腺を切除したネックレス状のメスのあとが
くっきりと見えている
「首の傷あとを見られるのが嫌で、
いつもスカーフか何か巻いてた。
なにか巻くものないか?」
そう言って、父はタンスの中を探しはじめた
が、なかなか見つかる気配がない
親戚の一人が口を開いた
「りかちゃんのしている、そのストールは?」
が、
私が首に巻いていたストールは、
ステージ衣装に合うようなものではなかった
「あ...」
思いついたように、私はおもむろに、
左のブラジャーのカップに入れていたハンカチを取り出し、
母の首元に巻いた
「あらー、素敵だね」
「衣装に合っていいね」
親戚の間から、そんな言葉が上がった
肌あたりがよく、
大切にしていたハンカチ
色も柄も気に入っていたハンカチ
母が持っていってくれた...
母もきっと淋しくないかな...
...そんなことを思いながら――
今宵、満月――
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Source: りかこの乳がん体験記
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