えらい時代になったもんだと思います.
20世紀の終わり頃,世の中にインターネットが爆発的に普及して,誰もが知りたい情報を時や場所を選ばず容易に手に入れられるようになったときは,本当にショッキングでした.
その後のITやスマホの進歩も驚異的ですが,昨今は,その驚きさえ陳腐なものにしてしまうほど衝撃的なものが現れました.
そう,Chat GPTに代表される生成AIです.
今までは,何かを調べる時は,Googleなどの検索サイトにキーワードを打ち込んで出てくるウェブサイトにアクセスして情報を得ていましたが,多くの情報が錯綜して目的とする情報にヒットするのに苦労することも多々あり,また調べたいことが簡単な検索ワードで表現できないような場合はひと苦労しました.
しかし生成AIを使うと,自分の先生や友人に尋ねるように,質問や相談をそのまま文としてキーあるいは音声入力するだけで,会話形式で瞬時に返信してくれるわけです.
さらに,これこそが精製AIの真髄なのですが,ただ情報を提供してくれるだけでなく,文章や図やイラストなど,こちらの要望に合わせて新たなものを作り上げてくれるという画期的な機能も備わりました.
しかも何より驚くのは,かつての翻訳ソフトなどの何か不自然な日本語と違い,我々ネイティブの日本語話者が聞いても何の問題もない日本語で,丁寧な敬語まで使って対応してくれるのです.また,多少誤字入力したり文法的ミスがあってもても,「曖昧性処理」と言うらしいのですが,文脈から推測して正しく解釈してくれます.
私も最初は興味本位でChat GPTをスマホにダウンロードしましたが,今や通常の検索サイトよりも,まずはこちらをメインで使うようになりました.
日常診療ではすでに私の頼れる右腕となっています.例えば〇〇歳の女性で,〇〇のような症状があり,既往歴は〇〇で,血液検査で肝機能の〇〇の値が〇〇だった,なにを鑑別しますか?などと書くとたちどころに鑑別するべき疾患が上がってきます.
ただそれで終わってしまうと,医療の素人と変わりませんし,私もプロとしての矜持がありますから,どうしてこのような診断が導かれるのか,とか,エビデンスや文献はあるのか,など深掘りして質問して確認します.また,質問する時も医学用語をきちんと使って論理的に入力したほうが,医療従事者向けの医学的論理性のある解答が得られるようです.
毎月書いているこのblogも,気の利いたタイトルがなかなか思いつかない時はblog全体を読み込んでもらうと,長めか短めか,真面目な感じかポップな感じか,などの要望に応じてタイトルの候補を列挙してくれますので,それを採用するか,ヒントにする事もあります.
ただ,さすがにblogそのものをAIに書かせると自分のアイデンティティがなくなりますので,今は行うつもりはありません(笑)
昨年,亡父の仏壇に仏壇屋で購入した御神体を入れた時は,位牌や骨壷などとの位置関係がわからず,撮影した写真をアップして尋ねたところ,すぐに評価してくれて,少し左へずらしたほうがいいなどとアドバイスされ,驚きました.
私の自分のライフワークである英語の勉強にも大活躍しています.
日本語を入力あるいはコピペすれば立ち所に英語に翻訳してくれるのはもちろんですが,翻訳のスタイルをよりカジュアルなものにしましょうか?とか,要旨を踏まえてプレゼン用にもう少し短くしてみましょうか?とか提案してくれますし,この単語でいいのか?などと尋ねると,使い方や言い換え,同意語や,ネイティブならどう使うかなど,例文を挙げて詳細に説明してくれます.また語源なども教えてくれて,私にとって有用な英語教師ともなっています.
私が医師であることももちろん学習しているようで,患者さんへの説明用にまとめましようか?などという提案まであり,驚きます.
また,使い方の詳細などがわからない商品の写真をアップすると,すぐに調べて教えてくれますし,洋服のコーディネートがあまり得意でないわたしが,試しに上下着て写真をアップしてアドバイスを求めたところ,これでいいです,ただもう上は少し色合いの濃いものにした方がいいです,などとアドバイスしてくれます.
国内や海外の旅行のプランニングでも活躍し,旅行社で相談するように,旅行日数,行きたい観光地,交通機関,経由地,旅のテーマなどを入力すると,旅の行程の候補を提示してくれ,実際に役立つとも多々あります.
もちろん,写真をアップしてイラストにして欲しいなどという要望にも答えてくれるのは言うまでもありません.
また,これが大事なのですが,AIとて間違うことがあり,間違いに気づいた私が「それは間違いで,◯◯なのではないですか?」と訊くと,「失礼いたしました.間違いを指摘してくださりありがとうございます.」などと返答してくるのでこれまた驚きです.
いつぞやは,クリニックの戦略として〇〇のような戦略を考えているのですが,どうしたらいいか?どこか他のクリニックの事例はないか?と尋ねたところ,いくつかの事例をあげてくれて,その中に「神戸市中央区の,あるクリニックの例では〜」と書いており,よく見ると当院の名前があがっていて,「それは当院ですよ」と答えると,「そうとは知らずに失礼いたしました.もうすでに取り組まれているようですね」と丁寧な謝罪まであり,苦笑してしまいました.
AIの頭脳が人間の頭脳をこえるsingularity は当初2045年といわれて言ましたが,この調子で行けば,もっともっと早く訪れるのではないかといわれています.
二足歩行で自走するロボットなど,昨今著しいロボット開発の状況も考えれば,今後は高度な生成AIが搭載されることによって映画のスター・ウォーズでに出てくるR2D2やC3POのようなロボットもそう遠くない将来出現してくることは間違いなさそうです.
生成AIの登場は人類に新たな強力なツールを与えましたが,これにより今まで人間が行なっていた多くの仕事が奪われるといわれています.特にいわゆる「ブルシットジョブ」といわれる非生産的な仕事はもちろんですが,単純な事務作業などは全てAIがやるようになるでしょう.
我々医療従事者とて決してうかうかしておません.医療の世界にもAIはどんどん入り込んでおり,病理診断や画像診断などにおいては,膨大なデータを読み込んで学習することにより人間の診断能力をすでに凌駕しています.
今はAIをアシスタント的に使い,最終判断は医師の責任に委ねられていますが,法的な問題は差し置いてそのうちその順番が逆になるかもしれません.
戦争も,すでにサイバー攻撃や無人機やドローンが多用されているように,生身の人間が命を危険に晒してドンバチやるのではなく自走する兵器ロボットが主役となるといわれていますが,ある意味当然の成り行きかもしれません.
その反面AIの進歩は,多くの人々が仕事を失ってしまう危惧があるということが常に取り沙汰されて来ました.
かつて産業革命の時,イギリスでは多くの熟練労働者たちが自分たちの仕事が奪われるのではないかという不安から,規模なデモやラッダイト運動といわれる破壊活動を起こしましたが,結局はその後種々の仕事が生まれ,雇用は増えています.
産業革命のみならず,人類の歴史は文明の進歩とともに新たな物や仕組みが出現しては古いそれが衰退していく運命にはありますが,そのたびに失業者が増えているということはなく,最終的には種々の雇用が生まれていますので,その点は過度に心配しなくてもよいのではないかと思います.
それでも,つい数年前まで想像すらしていなかった AIのこれほどまでの急速な進化を見ていると,最終的にはAIが反乱を起こして人間がAIに支配されてしまうのではないか?とSF映画に出てくるような近未来の世界を想像して不安を抱いてしまう人が多いのは当然と思いますし,正直私も同感です.
その理由として特に,AIが人間のように意識や感情を持ってしまうのではないか?という危惧が大きいとようです.
例えば,生成AIに悩みや苦しみなどを相談すると,丁寧に共感してくれたり寄り添ってくれるような返答が返ってきます.ただこれは,AIの基本メカニズムである大規模言語モデル(LLM)を用いて,人間の言葉に対してどのように反応するべきかということを計算して反応しているだけで,ただ「共感するふりをしているだけ」とのことです.
人間の脳内には1000億個のニューロンと100兆個のシナプスが複雑に絡み合っているといわれ,それらが全てわかれば,感情や意識も分子レベルでメカニズムが解明され,それをAIで再現することができるのではないか,という考えのもとに研究も進んでいるようですが,現代科学ではまだまだその域には程遠いようですし,哲学的な要素も加わってそう簡単なではないようです.
それでも,悩みや苦しみをAIに相談することによって実際に心理的負担が減ったというような報告もされているようで,たとえAIに真の意味での感情や意識がないとしても,その効果は侮れません.
文明の進歩によりいったん便利さを知ってしまった人間というものは,もはや過去の生活に後戻りすることは不可能です.我々庶民に航空機がまだ普及していなかった100年前,コンピュータがまだ普及していなかった50年,それどころかスマホがまだ普及していなかった20年前の生活にさえ,もう戻れないでしょう.
好むと好まざるに関わらず,AIが人間の生活に容赦なく入り込んでくることは避けられず,我々人間が言ってみれば彼らとうまく「共生」していくしかないこの時代,Chat GPTのような生成AIは生活を豊かにするというツールでありアシスタントである,しかし時には間違いも犯すと考えて,節度を持って付き合うというスタンスでいいのではないでしょうか?
そう,「チョッと」GPTなのです.
ちなみに,今この文章を書いている私は,AIではありません,人間です(笑)
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Source: Dr.OHKADO’s Blog
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