昨今の新型コロナウイルス騒ぎで,わざわざスポーツジムに出かけていくのも気が乗らなくなった方も多いのではないでしょうか.私はもともとジム通いはしていませんが,それでも退職後は運動不足にならぬようにと,「積雪や嵐など,よほど不可能な事情がない限り,毎日 出歩く」ことにしていたのですが,さすがに 控えております.
しかし,一日中 家でゴロゴロしているのもどうかねぇと思っていたら,2020年2月22日付の産経新聞に;
速歩より「階段の上り下り」に健康効果 筋力維持、動脈硬化も抑制へ
という記事が掲載されていました. 同じ心拍数となる強度であれば,階段昇降は,平地の速歩や自転車漕ぎよりも筋肉への負荷が高く,高齢者の筋力維持には適しているという内容です.
さらに,階段昇降運動は,
糖尿病患者の食後高血糖を抑制する
とあったので,身を乗り出しました. それなら天候にも左右されず 自宅内でできそうです.
ただ 新聞記事では詳細が不明なので,このインタビューを受けた 名古屋市立大学 高石鉄雄先生の学術論文を探してみたところ,
この2本の報文を基にした記事のようですので,ご紹介します.
糖尿病予備軍の階段昇降運動
1本目の報文の対象者は,以下の通りです. 糖負荷試験の2時間値が140~200の人,つまり境界型の男性8人です.
平均BMIは 23.5とやや太めですが,年齢からみて標準的な体格です.
この試験では,全員一律に同じ運動法ではなく,その人の心拍数などを見て,各人ごとに同じような負荷となる階段昇降運動速度を予め予備試験で決めています.また食後血糖値を測定するため,全員が同じ(やや高糖質の)試験食を用いています.
比較対象として,「運動なし」「歩行運動」の場合も測定しています. どちらの運動も 試験食の食後90分に開始しています.
階段運動と歩行運動の詳細は,下記の通りです.
階段を昇る速度は,各人ごとに測定した無理のない速度に設定していることに留意してください.さらに 階段を降りる速度は(おそらく転落事故防止のため),各自の任意の速度としています.
比較対象の歩行運動も各人任せです.いわゆる「食後の散歩」ですね.
結果
食前,及び 食後血糖値を測定していますが,それ以外にも運動前後の心拍数と血中乳酸濃度も測定しています.血糖値以外の結果は下記の通り.
そして食前から,食後90分の運動をはさんで,食後120分までの血糖値変化は下の通りです.
比較対象の「運動なし」「各人自由の歩行運動」に比べて,「階段昇降運動」は.食後105分,120分において,それぞれ有意に血糖値が低くなっています.食後90分に5~6分ほど階段を上り下りしただけです.
この結果を見ると
- 食後に軽く散歩したくらいでは,血糖値に変化はない
- しかし,階段昇降は すこしきつい(=心拍数が歩行よりも高くなっている)が,それほど過激な速度でなくとも,食後血糖値低下には効果がある
ということになります. ただし,グラフの105分に,歩行と階段それぞれの場合の標準偏差(▲と●から上下に伸びるヒゲ)を示しましたが,たしかに有意差はあるもののバラツキは大きいので,個人差が大きいようです.
こうなる理由は,階段昇降運動後の血中乳酸濃度は,歩行運動の2倍近いことからわかるように,筋肉に大きな負荷をかけ続けたからでしょう.
ただし,本論文のLimitationの項で著者も述べているように,この試験は対象人数が8人と非常に少ないため,誰でも必ずこうなるとは保証できません.又 本来であれば,各人に最適の運動強度は,個別に酸素消費量を測定しておくべきでしょうが行っておらず,単に 推測計算値を比較しているだけです. さらに この運動の効果が長期的に同じ結果を出せるのかどうかは不明です.
くれぐれも転落にはご注意を
当然ですが,運動負荷を上げようとして,昇降速度を速くしようとするのは転落事故発生のおそれがありますから,くれぐれもご注意ください.また,心臓・腰・膝に不安のある方は医師に相談してください.
安全面から言えば,踏み台昇降運動の方が優りますが,連続して階段を昇る方が大腿筋への負荷は高いのでしょうね.
この試験は,境界型の人が対象でしたが,高石先生は 糖尿病の場合にも同様の試験を行っています.
[2]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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