カーボカウントとは
1型糖尿病の方ならよくご存じでしょう. カーボ,つまり炭水化物の量をできるだけ正確に見積もって,それによる血糖値上昇と 注射するインスリンの量(単位)とをバランスさせる方法です.
カーボカウントの具体的手法は,解説書も出されています.
著者の徳島大学 黒田先生は,自らも 12歳で1型糖尿病を発症し,罹患歴 38年,日本のカーボカウントの第1人者です.
カーボカウントで,インスリンを使っている人を対象にする場合は;
- 『インスリン量はいつも一定に固定しして,それに対応する糖質摂取量も一定にする』基礎カーボカウントと
- 『糖質摂取量の多少に合わせて,その都度インスリンを増減する』応用カーボカウント
の2種類があります.
カーボカウントは万能ではないですが
上記で『インスリン量と糖質量をバランスさせる』と書きましたが,言うは易し,実際にはそれほどうまくいかないこともあります.
自分で食後の血糖値を測定している方であれば,いやというほど経験されているでしょうが,食後の血糖値を完全に予測することは不可能です.昨日とまったく同じものを 同じ時間に食べたのに,今日は食後の血糖値の動きがまるで違う,そういう体験は多いはずです.
したがって,カーボカウントにおいて,食後血糖値のピークとインスリンの作用ピークとが少しでもずれたら,昨日と同じインスリンを打っても.それはバランスするどころか,むしろ高血糖と低血糖にセットで襲われることになります[下図].
カーボカウントにより,完全にインスリンでバランスをとろうとすれば,
- 過去に食べたものと,その食後血糖値の動きをすべて頭に入れておき,
- 出された料理を見て瞬時に食後血糖値を予測して,
- 超速効性/速効性/中間型のインスリンを適切に組み合わせて注射する
という神技ができなければなりません.
しかし,冒頭の 徳島大学 黒田先生ですら,どうしても計算に合わないこともあるとおっしゃっています.
ただカーボカウントに関してはおそらく日本最高の黒田先生であっても,カレーライスだけは,どうにも糖質量見積りと,結果(=食後の血糖値が長時間急上昇)が合わないようで,
『カレーライスだけは,経験則で見積もった糖質量を1.5倍するしかない.加えて基礎インスリンの1.2倍の追加打ちも必要』
と白状しておられました.
第61回 日本糖尿病学会
[S31-6 カーボカウントのエビデンス 徳島大学 黒田 暁生先生]
黒田先生にすらできないことを,並の人間がそれ以上にできるはずがありません. もちろん,カーボウカウントは不要ではなく,やらないよりはやった方がはるかに血糖値の乱高下リスクを減らすことはできるのですが.
米国ではカーボカウントが普及
米国ではカーボカウントの考えは目新しいものではなく,既に1920年代から行われていました.食後 急速に血糖値を上げるのは炭水化物(糖質)であることがわかっていたからです.しかし,カーボカウント(英語では Carbohydrate Counting 又は Carb Counting)が世界的に注目されるようになったのは,DCCT試験でカーボカウントを遵守した患者の成績がもっとも優秀だったからです.
米国では(そして世界では),カーボカウントとは,料理や食品による 食後の血糖値上昇を予測するために,炭水化物量を見積るテクニックの一つにすぎず,カーボカウントが独立した食事療法というわけではありません. またカーボカウントが特定の食事療法のみに使われるというわけでもありません. 地中海食だろうが,カロリー制限食だろうが,そこでカーボカウントを使っても不思議ではありません.カーボカウントは糖尿病の管理において 一般的に行われるべき当然のアプローチです.2008年の米国糖尿病学会(ADA)の栄養に関する声明にも,こう書かれています.
訳:
糖尿病管理においては,インスリン又はインスリン分泌促進薬の用量と食事の炭水化物含有量とをマッチさせることが重要である. カーボカウント,食品交換システム,あるいは経験に基づく推定など,各種の方法で食事中の栄養素含有量を推定できる.多くの人は,食前および食後の血糖値を測定して,又は過去の経験から,さまざまな食品での食後血糖値の目標を評価して達成する. これまでのところ,炭水化物の摂取量と血糖応答の関係を評価するどれか1つの方法が他の方法よりも優れていると証明した研究は存在しない.
しかし日本ではカーボカウントがあたかもそれ自体が独立した食事療法であるかのように説明されることが多く,これが『カーボカウントか糖質制限食か』という世にも珍妙なバトルの原因になりました.
[32]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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