第64回日本糖尿病学会の感想[21] 『グルカゴンの反乱』のその後-7

健康法

前回 からの続きです.

  • 糖尿病はインスリンで血糖値が制御できなくなる病気である
  • インスリンは 上がりすぎた血糖値を下げ,グルカゴンは 下がりすぎた血糖値を上げる

糖尿病患者向けのパンフレットでは,こう書いてあるのはよく見かけます.
しかし そんな単純な『糖尿病の姿』に疑問を投げかけるのがこの文献でした.

グルカゴンは 決してインスリンの脇役ではないのです.

しかも グルカゴン分泌を左右しているのは,蛋白質,とりわけ 分岐鎖アミノ酸[BCAA]ではないかとも報告されています.

しかし,この実験は 人間ではなくマウス,それも遺伝子操作で先天的に肥満→糖尿病を発症しやすいマウス[※]での実験でした.

[※] それ以外にも薬物(ストレプトゾトシン:STZ)により耐糖能を悪化させたマウスも用いています.

「マウスで行った動物実験の結果がそのまま人間にあてはまるとは限らない」

とはよく言われることです.
上記の 蛋白質とグルカゴンとの関係は,マウスだけではなく,人間でも確認されているのでしょうか?

はい,実は確認されています

今回の日本糖尿病学会でのこのシンポジウムで 群馬大学の北村忠弘先生は,

健常なボランティア 11~12人に,すべて カロリーを300kcalに揃えて

  • 97%蛋白質のホエイプロテイン,
  • オリーブ油
  • ブドウ糖

だけを摂取してもらったところ,

オリーブ油やブドウ糖では,摂取前後のグルカゴン変化はなかったが,ホエイプロテインだけが顕著にグルカゴン分泌増加がみられた

と報告されていました. 未発表データとのことなので,講演で示されたグラフなどの詳細は ここでは述べませんが,近日中に論文発表されると思います.

したがってマウスで確認された現象は人間でも同様にみられるようです.

インスリン抵抗性ってあるのですか?

ここまでみてくると,糖尿病治療ガイドなどに書かれている この説明に疑問がわいてきます.

インスリン抵抗性とは,血糖値の上昇によりインスリン分泌が増えるが,脂肪細胞などのインスリン抵抗性により 多量のインスリンが分泌されていても血糖値が下がらない現象のことである.

たしかにクランプ試験ではブドウ糖だけを用いて血糖値を上げているので,そこで観測される『インスリン抵抗性』は,まぎれもなく 各組織での糖取り込みに対するインスリン感受性の不足度合を測定していると思います.

しかし,通常の食事を食べた後に,多量のインスリンを分泌しているにもかかわらず,血糖値が下がるどころか上がっていく,この現象のすべてが本当に『インスリン抵抗性』だけでしょうか?

食事中の蛋白質によって,健常人でも糖尿病患者でもグルカゴン分泌が亢進することは明白なようです.だとすれば,グルカゴンによって上がろうとする血糖値を力づくで押さえ込むために,膵臓が頑張ってインスリンの分泌を増やしているだけではないでしょうか?

従来の糖負荷試験では,血糖値やインスリンは1時間おきに測定しますが,グルカゴン値は測定していない(しかも サンドイッチELISA法で) ので,この現象が認識できていなかっただけではないでしょうか. グルカゴンも同時測定する糖負荷試験など,世界のどこでも行われていないのですから.

講演後のQ&Aで,北村先生もチラリと述べておられましたが,このグルカゴンのふるまいを突き詰めることは,実は従来の『糖尿病はインスリン抵抗性である』という説明に対して,

『インスリン抵抗性って本当に存在しているのですか?』

という根源的な疑問を投げかけるものなのです.

[22]に続く

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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