医師の働き方改革とは…

内科医

  先日は医師会の急病診療所の夜間当番でしたが,この時期だけあって当日はインフルエンザの患者が山ほど来院,さすがに疲労困憊でした.

  さて,少子高齢化による労働力人口の減少や過重労働による過労死やうつ病がクローズアップされてきた昨今,今この国のホットな話題は「働き方改革」とやらで,長時間労働や正社員と非正規の格差などの問題が熱く議論されています.

  時間外労働の上限も厳しく決められるようですが,高度な専門職についてはその例外となる見込みで,特に我々医師の場合は,年間の残業時間が1900〜2000時間と,まさに上限などあってなきがごとし,医師は過重労働で死んでもいいということか?など予想通り多くの反発が出ているのは知っての通りです.

  他の職業とは異なり人の命を預かる仕事をする医師は,使命感や倫理観で滅私奉公するのが当然で,報酬や労働時間について議論することは一種のタブーという雰囲気がありましたし,私たちもそんなものだと思ってきました.そもそも,帰宅時間になったから手術中であっても中止して帰宅するとか,受け持ち患者の具合が悪くても休日だから見に行かないといったことは実際には不可能ですし,患者の家族が病状の説明を希望すれば,日曜祝日でも出勤していたわけです.

  ですから,この仕事に限っては労働基準法などどこ吹く風で,明らかに過重労働とわかっていても誰もが見て見ぬ振りをしてきたということです.
  時間外労働について議論されるようになっただけでも進歩なのですが,私たち現場の医師に言わせれば「なにを今さら?」という感じです.

  ただ,そもそも時間外労働の規定をすべての医師に一律に当てはめるのは無理で,また医師の過重労働の問題はそれだけで解決できるような単純なものではないと私は思います.

  批判を承知で言えば,少なくとも医師としての基礎を築くべき卒後数年感は,時間外労働の上限など決めること自体が意味をなしませんし決めるべきではないとさえ思います. 
  そもそも臨床医学というのは,いくら机上で勉強して知識を得ても,実際の症例を経験しないと身につきません.外科系など特にそうで,本を読んだだけでは手術が出来るようにはならないのです.
   鉄は熱いうちに打てといいますが,研修医の時期はまさにその通りで,とにかく1例でも多く患者さんを担当したり手術や検査を経験することにより腕を磨く時期なのです. 経験数と臨床医としての技量とは比例すると言っても過言ではなく,私の若い頃も,少しでも多くの経験を積むべく,同僚たちと競争し切磋琢磨しました.
  最近の研修医は待遇面で以前よりかなり恵まれていますし,勤務時間も労働基準法に則り,残業もなるべくさせないようになってきているようですが,頭が柔らかくて体力も気力もあるこの時期にこそ厳しいトレーニングを積ませなくて,いつ積ませるというのでしょうか?
  医師としての技量や心はこの時期にこそ育つと言っても過言ではありませんし,欧米でもレジデントは我が国以上に厳しいトレーニングを受けています.そういう意味ではアスリートや音楽家と何ら変わりはないわけです.

  もちろんオンオフや休日を明確にして心身をリフレッシュさせることも重要なのは言うまでもないことは付け加えておきます.

  ただ,卒後10年以上経過してそこそこ一人前の中堅クラスとなると,役職がついて研修医の指導だの学会発表だの書類書きだの会議だのと,いわば中間管理職としてさまざまな雑務もしなければならなくなってきますし,多くの場合家庭を持って子供もでき,また体力的にもすこしきつくなってくるわけで,この時期くらいからは,やはり残業時間に制約を設けたり,雑務を減らすべきだと思います.

  それから,患者サイドの問題も解決すべきです.
  少し熱が出だだけで大病院の救急外来に行くようなコンビニ受診や,オフの日にまで主治医を呼び出して説明を求めることや,理不尽なことで暴言を吐いたり訴訟に持って行こうとするクレーマーは何とかして欲しいですし,医師は高級取りだし人の命を預かるのだから滅私奉公しても当然だろう,というような前時代的な固定観念も困ったものです.

  また,医師が本来の業務に専念できるようコメディカルを多用したり,主治医制ではなく完全なシフト制にしたり,地域間の医師の偏在を解消するなど,医療を取り巻くシステム自体を根本的に変えないと根本解決には繋がらないと思います.

  私たち医師の大半は仕事が好きですし,情熱ややりがいを感じていると思いますので,ある程度であれば残業することなど何ら苦痛は感じていない者がほとんどだと思います.
  働き方改革を医療現場に当てはめるのであれば,国のお偉い方々も何より我々現場の声に耳をよく傾け,時間外労働の設定もさることながら,こういった部分を改革してもらわないと,真の意味での改革には至らないでしょう.


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Source: Dr.OHKADO’s Blog

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