私は漢方専門医ではありませんが,開業してから漢方薬の素晴らしさに魅了されてそれなりに独学で学び,日常診療で多用しています.
気血水の考え方で治療を行う漢方では,心身を巡るエネルギーのようなものを「気」と考えます.これは,元気,勇気などの「気」とほぼ同じことで,元気のない状態,エネルギーが足りないガス欠のような状態のことを「気虚」といいます.
こういう概念は西洋医学にはなく,例えば倦怠感を訴えて受診しても,血液検査やレントゲンなど様々な検査をしても異常が見つからなければ,原因不明とかストレスとか言われるだけで全く太刀打ち出来ず,挙げ句の果てには心療内科に送られたりするわけです.
しかし西洋医学的に原因が見つからなくても病気でないとは言えないわけで,これを東洋医学的に気虚と考え,「気」を充填するような方策を取れば対処できるかもしれません.
例えば,風邪が長引いてしんどそうにして来院される方はまさに気虚が多く,診察室に入って来る様子でそれがわかります.足取りが重く,目に生気がなく,声がボゾボソして,姿勢も悪くなっている.
聞けばもう2週間も風邪薬を飲んでいるなどと言われるのですが,こんな時期に,急性期に使うべき解熱鎮痛剤や総合感冒薬をダラダラのんだり,ましてや風邪には効かない抗生物質も飲んでいたり,しかも,体力をつけるためにとか,はたまた月謝がもったいないからとしんどさを堪えてジムに行ったりしている人さえいます.
でもこれでは治るはずがないのです.
こういう時は,なによりも「気」,すなわちエネルギーを充填してあげることが大事で,風邪は三日三晩寝ていれば治るといわれる通り,しっかりと栄養のある物を食べてひたすら寝て安静にしていることが効果的なのですが,忙しい現代人にはそれもかなわないため,補気剤といわれる補中益気湯のような漢方を飲んでいただいたりするとかなりの確率で改善し,やはり気虚だったのだということを再認識させられます.
ところで,長年私がやっている合気道では,この「気」ということを,とことん教え込まれます.
武道というと,アドレナリンを出しまくって相手をやっつけるというイメージがありますが,合気道は相手の動きに無理に逆らわず無力化するため,無駄な力は極力使いません.むしろ 合気道の技を効かせるためには,常に臍下の一点(臍下丹田ともいいます)に心を鎮めてリラックスし,「気」を出すことが基本です.
「気」の出ている盤石の姿勢をとると,どんな体勢においても相手から多少押されたり引かれたりしてもびくともしませんし,次の動きに素早く移れ,技も容易に効きます.
実はこれは他の武道あるいはスポーツなどでも通じることで,あの王選手はじめ多くの有名スポーツ選手が「気」の理論を取り入れて成績が劇的に伸びたことは有名です.
病は気から,というのは言い得て妙で,「気」の出た人や気力の充実している人は病気になりにくく,なっても回復しやすいと感じます.
もちろんそれだけで全ての病気が予防や治療できるわけではありませんが,いつも「気」が引っ込んでしまっている人,くよくよと不平不満ばかり言う人,ネガティブな人は,治癒も遅く,次から次へと病気を呼び込んでいる印象がぬぐえません.
逆によく明るく笑う人,声のしっかりした人,背筋をまっすぐ伸ばしてまっすぐ前を向いて歩いている人,何事も前向きに捉えてて決してネガティブな言葉を発しない人は,やはり「気」が充実していて,病気の回復も早いと感じます.
外科医として長年数多くの患者さんの手術に関わってきた経験からしても,病気になってしまったことを悔いてくよくよしたりせず,それを治そうとする強い意欲や社会復帰後の明確な目標を持っている人は,そうでない人と比べて明らかに術後の回復が早いことを身を以て実感していました.やはり「気」の出ている人は,免疫能が高まっているというのは本当なのでしょう.
不幸にして白血病にみまわれて闘病中の池江璃花子選手も,報道されている彼女の言動が本当ならば「気」がしっかりと充実していると思いますので,きっと驚異的な速さで復帰するのではないかと思います.
私も,齢六十を超え,若い時と比べ種々の面で衰えを感じます.誰でも加齢には逆らえないので当たり前なのですが,「気」を出す生活を送ることにより少しでも長く心身ともに健康でありたいと思います.
Source: Dr.OHKADO’s Blog
コメント