第66回日本糖尿病学会の感想[2] 加齢とインスリン分泌能の低下

健康法

【この記事は 第66回 日本糖尿病学会年次学術集会を聴講した しらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞きまちがい/見まちがいによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】

鹿児島での現地開催は終了しましたが,6月1日からはWEB配信が始まります.

当初のアナウンスでは,後日WEB配信されるのは,特別講演・記念講演だけということでしたが,さすがにこれではあんまりなので,シンポジウムも一部を除いて配信されるようです(最初からそのつもりだったのだろうとは思いますが).

ただし 一般口演(=症例報告など)や,ポスター発表は WEB配信の対象外です. したがって,3日間の現地開催中は,もっぱらこれらを聴講しておりました.

一般口演47-49

2型糖尿病の症例報告です.

2型糖尿病で,S20G遺伝子の変異【※】を持たない日本人136人のの空腹時C-ペプチドの変化を7年間追跡したものです.

【※】S20G遺伝子変異:膵臓でのアミロイド沈着を亢進させ,糖尿病発症リスクが高いとされている.日本人の2~3%にみられる

対象者の平均値は;

  • 平均BMI=23.8
  • 平均年齢 57.8歳

なので肥満者の割合は少ないと思われます.

回帰式から,空腹時C-ペプチドの平均低下速度は 1年ごとに -0.042ng/mlと算出されました.
空腹時C-ペプチドは通常 1.5~3.5 ng /ml ですから,毎年この速度で低下していっても ゼロになるまで36~83年はかかるので,ほとんどの人は大丈夫です.
ただし この集団の個人別に遺伝子変異の特徴を調べてみると,KCNJ11という変異を持つ人は特に低下速度が速い,すなわちインスリン分泌能の低下が速いと判明しました.

KCNJ11とは

下図は,膵臓β細胞の概略ですが,

  • 血糖値が高くなると,ブドウ糖はグルコキナーゼによってβ細胞内に取り込まれて,ミトコンドリア内でATPの産生が増加します.
  • すると,これを感知して 細胞膜のK+_ATPチャネルが閉じられて
  • 細胞膜の両側の電位差が小さくなる(=脱分極)ので,
  • Ca++チャネルが開き,細胞内のCa++濃度が上がります.
  • これが刺激となって,インスリンの細胞外への分泌が始まります.

KCNJ11遺伝子変異は,このインスリン分泌の仕組みの第一ステップである,K+_ATPチャネルが適切に閉じられず不全をきたしやすくなる変異です.
この変異がある人は,加齢による平均的なインスリン分泌の低下よりも早く低下していくようです.
すなわち加齢により糖尿病を発症しやすくなる,あるいは既に糖尿病である場合はインスリン枯渇にいたる時期が早くなるということです.

遺伝子変異によるものなので,根本治療は不可能であり,通常はインスリン注射に移行します. ただし,膵臓のインスリン分泌能力全体の問題ではなく,K+_ATPチャネルがうまく閉じてくれないというだけなので,このチャネルを開かせる薬物で,すなわち少量のSU剤投与でうまくバランスがとれることもあるようです.

(C) Diabetes Genes

[続く]

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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