第66回日本糖尿病学会の感想[26] 地中海食と日本食

健康法

【この記事は 第66回 日本糖尿病学会年次学術集会を聴講した しらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞きまちがい/見まちがいによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】

前回記事で,日本の栄養学論文は,動物実験では米国に次いで世界2位なのに,ヒトを対象にした栄養学論文では大きく後れをとっていることを紹介しました.
栄養学の分野は大きくは2つに分かれるでしょう.

つまり,食事と栄養との関係[図の]を研究する分野と,各栄養素が人体内でどのような生理的・生化学的機能を発揮するか[図の]を研究する分野です.
の方は,生体であれば 人間でなくとも,動物(マウスなど)でも実験ができます (新薬を開発する時に,まずマウスやラットで投与試験を行うのはこのためです).

ところが,とを結びつける研究,すなわち 特定の食事から得た栄養が人体の病気・健康にどのように関連するかを明らかにしないと,ヒトの栄養学における結論が出せません.

このとを結びつける研究が『栄養疫学』です.

マクガバンレポート

栄養疫学が発展するきっかけになったのは,マクガバンレポートです.1977年,米国議会 上院のマクガバン議員は,脂質が米国人の心疾患増大の原因であるとして,食事から脂質の摂取を減らす『米国の食事目標』(Dietary Goals for The United States)を提案しました[].

[] なお,『マクガバンレポートは元禄時代の日本食を理想食として絶賛した』というデマは,今でも後を絶ちませんが,こちらの記事をご覧ください.

マクガバン議員が目指した,すべての米国人にこの食事基準を守らせようという提案は,医学界・食肉業界の猛反対で,最終的には当初の案より大幅に後退しました.しかしそれでも 『食事と健康を結びつける』というアイデアは,当時の米国だけでなく 世界の多くの国の医療・保健政策に大きな影響を及ぼしました.それまでの『食事と健康の関係』といえば,それは貧困などによる栄養失調や飢餓が問題のほとんどで,『栄養の過剰摂取が健康を損なう』という視点がなかったからです.

それ以降,『どのような食事が健康・疾病にどういう影響を及ぼすか』を調べる研究=栄養疫学が盛んになりました. 疫学研究になったのは,相手が人間だからです. 動物実験であれば,強制的な介入試験,すなわちケージに閉じ込めたマウスに 一定の食事しか与えないという形で食事が健康に及ぼす影響を調べられますが,人間が対象ではどんな強権・独裁国家であってもそれは不可能だからです.

この栄養疫学の研究から,心疾患の発生率が低くなると期待された地中海食が注目されました

地中海食

マクガバンレポートから二十年ほど経つと,疫学研究の結果が次々と報告されるようになりました.そして 特に地中海食の評価が進展しました.

(C) 灯写真工房

この図は PubMed で”mediterranean diet“(地中海食)をキーワードにして論文の数(本/年)を検索した結果ですが,

論文総数は 8,478本でした. そのほとんどが1990年代から爆発的に論文が増加したことが読み取れます.

一方 このグラフのはるか下の方を這っている赤い棒は,同じく 日本食(“japanese diet” or “Washoku“)をPubMedで検索した結果です. 論文総数は50年間で 何と 277本しかありません.糖尿病学会が『理想的な健康食』としてきた『食品交換表』は,まったく登場しません. さんざん探したところ, 地中海食と日本食とを比較したこういう論文もありしたが;

Nutrients 2022

この論文を読むと,たしかに『日本食は地中海食と並んで健康的であり,これが日本人の長寿の秘訣だろう』と お褒めいただいてます.論文のAbstractしか見ない人は『そうらみろ,やはり日本食は世界から絶賛されているっ!』と吹聴するでしょう.

しかしながら 本文中の;

The majority of fat consumed in Japan is rice bran oil,
『日本人の摂取する脂質のほとんどは米糠油である』
 
Japanese populations also consume large amounts of whole grains (rice)
『日本人は玄米を大量に消費している』

などという記述を見ると,いったいどんな『日本食』を調べたのだろうかと疑問を抱きます.これ2022年の論文なのですが.

栄養学という分野では,日本は まだまだ 『フジヤマ』『 サムライ』『 ゲイシャガール』の国なのですね.

メディアやネットだけを見ていると,『日本食は世界から絶賛されている』という情報があふれています.しかしそれはあくまでも日本国内という井戸の中だけの現象です.

少なくとも世界のアカデミズムでは,この通り 日本の栄養学は発信されていません.発信を拒否しているわけではないのでしょうが,結果として世界には伝わっていません. だから,東大 佐々木敏教授から『日本には栄養学が存在しない』と喝破されても,誰も反論できなかったのです.『栄養』を名称にする学会は多いのに,どうしてこうなのでしょうか.

[続く]

   

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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