1月24~26日に京都国際会館で開催された「第23回日本病態栄養学会 年次学術集会」に野次馬参加してきましたので,その速報です.
個別の口演やポスター発表の内容は追ってブログ記事にしますが,本日は速報として今学会の目玉である 『6学会合同パネルディスカッション』の概要です.
[1] 日本糖尿病学会の提言
まず日本糖尿病学会の食品交換表編集委員会を代表して,窪田直人先生(東大 病態栄養治療部部長)が 昨年9月に発表した『糖尿病診療ガイドラン 2019』の概要,特に同ガイドラインの「第3章 食事療法」に記載した,糖尿病患者の総摂取エネルギー量について紹介されました.
その内容はこの記事に記載した,昨年の第62回日本糖尿病学会年次学術集会での『Featured Symposium 5-2 糖尿病の食事療法における課題』にて,慈恵医大 宇都宮一典先生が講演された内容とほぼ同じでした.
なお,座長の門脇先生(糖尿病学会理事長)は,『糖尿病診療ガイドラン 2019』の「第3章 食事療法」で,総エネルギー(カロリー)摂取量のステートメント(Q3-3)には,一切数字は入っていないことを強調していました.たしかにBMIや活動度係数などの数字がステートメントの解説文中に登場するが,それはあくまでも目安にすぎない,基本原則は「患者個別ごとに設定する」のだと.
日本糖尿病学会からのこの提言を受けて,以下 関係5学会・団体が意見を述べました
5学会・団体の意見
[2] 日本腎臓学会
日本腎臓学会からは,鈴木芳樹 同学会評議員(新潟大学教授)が,CKD・糖尿病性腎症の食事療法基準を解説.私にとって耳新しかったのは,日本の腎症患者は圧倒的多数が 第3期aであって,そもそも特段の厳しい低蛋白制限をする必要はないということでした.
[3] 日本肥満学会
日本肥満学会からは,石垣泰 同学会評議員(岩手医科大教授)が,肥満治療の観点から総カロリー設定の現状を説明. もともとが高度肥満患者が治療対象なので「BMI=22を一律に設定するよりは,BMI=25まで目標範囲に含めるほうがよほど現実的だ」との考え.
[4] 日本骨代謝学会
日本骨代謝学会からは,塚原典子先生(帝京平成大学教授)が,骨粗鬆症の予防・治療に必要な栄養バランスを解説.
[5] 日本肝臓学会
日本肝臓学会からは,白木亮 評議員(岐阜大学講師),窒素平衡をマイナスにせず,平衡状態を保つことが重要,重症の治療には可能な限りプラスにもっていく,それには十分な蛋白質摂取が必要と説明.
[6]日本栄養士会
最後に日本栄養士会からは,原純也 理事(武蔵野赤十字病院栄養課 栄養課長)が,全国の栄養ケア・ステーションなどの活動状況を解説.
パネルディスカッション
各学会の意見表明の後は,座長(清野裕 日本病態栄養学会理事長/門脇孝 日本糖尿病学会理事長)を交えて,全登壇者によるパネルディスカッションに移りました.
ディスカッションの冒頭,清野先生がいつものスタイルで,各パネラーにズバリと切り込んでいました.
- 糖尿病診療ガイドライン2019では,『BMI=22を一律設定にはせず,年齢層により 22-25を目標にする』
- 活動度係数は実測データを受けて,30-35とする
この2点について,賛否を明らかにしてほしいと求めました.
これに対して,ほぼどの学会も賛意を表明したのですが,肝臓学会は「あくまでも肝症状をみて,それに最適の栄養療法があるのだから,一概には固定できない.」という立場でした.また 骨代謝学会は,「カロリーだけを取り上げるのではなく,健康的な骨代謝には ミネラル・ビタミンまで含めた全体の栄養バランスが必要」と回答していました.
各パネラーの中では,栄養士会のスタンスがユニークでした. なぜなら 栄養士・管理栄養士は,患者との最前線にいるわけですから,ガイドライン(これがまた非常に多数ある)で各学会から「理想」を示されても,それを日々の院内食・病院給食の具体的な献立に落とし込まねばなりません.しかもコストと人手との兼ね合いもあるので,ガイドラインと患者の間で板挟みです. 「食事療法の個別化」という原則は結構としても,まさか一人一人まったく違う献立にすることは不可能でしょう. したがって,「今後どうするのか」と問われても「努力します」としか言えなかったのは当然でした.
なお,会場からは
今回のカロリー設定見直しで,従来糖尿病食としていたものが結果的に通常食とほとんど同じものになってしまうケースが出てきたら,療養食加算が請求できなくなるのではないか
などという切実な質問も出て,なるほど カロリー設定を変更しただけなのに,実にいろいろなところに波及するのだなとわかりました.
[2]に続く
Source: しらねのぞるばの暴言ブログ
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