それではギラン・バレー症候群の治療にいきます。
ギラン・バレー症候群は免疫の病気ですので、治療としてはその悪い免疫を調整する治療が主体となります。
大きくわけて、①経静脈的免疫グロブリン療法または②血漿浄化療法 (けっしょうじょうかりょうほう) というものがあります。
①経静脈的免疫グロブリン療法
通称IVIg (アイブイアイジー) という治療です。
これは経静脈的というのは点滴で治療をするものという意味として捉えてください。
つまり、これは免疫グロブリンというものを点滴で入れていく治療です。
具体的には献血ベニロンIという治療薬を使用します。
メリットとしては、点滴治療なのでラクということが挙げられます。
1日の投与量としては、400mg (8mL)/kg体重です。つまり体重が50kgであれば20,000mg (400mL) ということになります。初回や二回目投与時などは、アレルギー反応が起こることがあるため、最初の一時間はゆっくりと投与することが推奨されています。体重によっても異なりますが、体重が50kgであれば1時間あたり30mLという速度です (0.01mL/kg/分)。その後は、3倍の速度で投与可能です (0.03mL/kg/分)。その他の副作用としては、頭痛・嘔気・悪寒 (おかん:さむけのこと)、発疹 (ほっしん)、急性腎不全 (きゅうせいじんふぜん)、血栓症 (脳梗塞や心筋梗塞など) が代表的なものとして挙げられます。点滴は通常5日間連続で行われます。
②血漿浄化療法 (けっしょうじょうかりょうほう)
これは細かくわけると3つに分類されます。
1. 単純血漿交換療法 (たんじゅんけっしょうこうかんりょうほう:PE)、2. 免疫吸着療法 (めんえききゅうちゃくりょうほう:IAPP)、3. 二重膜ろ過療法 (にじゅうまくろかりょうほう:DFPP) というものです。この中で、ギラン・バレー症候群では主に1や2の治療が行われることが多いです。
血漿浄化療法はやや大掛かりな治療であり、ダブルルーメンカテーテルという太い管を入れる必要があります。内頚静脈という首の静脈か、大腿静脈という太ももの静脈に入れることが多いです。
かなり簡単に説明すると、PEは、カテーテルから血液を引いてきて、病原物質が含まれると考えられる血漿成分を血液から取り出し、他人のものと交換してから、カテーテルで戻すという治療です。基本的には献血で得られた他人の血漿 (新鮮凍結血漿 (通称:FFP)) を大量に使う治療です。また血漿成分にはアルブミンが含まれるのですが、これが一部失われるため補う必要があります。
輸血一般に言えることですが、 血漿交換療法のデメリットは感染症のリスクがあるということです。現在は技術の進歩により昔とは比較にならないほど感染症のリスクが低下していますが、それでも連日にわたり大量に使用するため、リスクはあると言えます。具体的にはB型肝炎、C型肝炎、HIVなどです。 またまだ知られていない未知の感染症伝播のリスクがあったり、治療そのものが高額というデメリットはあります。メリットとしては、病原物質を高い効率で除くことができるため、効果が期待できる点です。
一方、IAPPは カテーテルから血液を引いてきて、病原物質が含まれると考えられる血漿成分を血液から取り出し、吸着材というもので自己抗体を取り除き、カテーテルで戻すという治療です。
輸血の必要がないので、輸血による感染症リスクはありません。またアルブミンの喪失も比較的少ないとされており、原則的には補う必要がありません。
PEの方が国際的にも広く行われている治療であり、その治療効果が証明されています。
一方で、IAPPはおもに国内の報告が多いように思います。まとまった報告が少ないため、エビデンスという観点ではPEに劣りますが、おそらく同程度の効果なのではないかと考えられています。
PEやIAPPは通常2週間以内に5回までを上限として、だいたい1日〜2日おきに行われます。
以上がギラン・バレー症候群の治療です。
なお、ギラン・バレー症候群は通常発症してから2週間以内 (遅くても4週間以内) に症状のピークの迎えて以降快方に向かっていくことをお話したと思います。特にIVIgは5日間使用してもその後なかなか改善がみられない場合には繰り返し行うことがあります。症状が快方に向かうフェーズに入れば、患者さんも我々も少し安心するのですが、呼吸筋麻痺 (呼吸筋がうまく働かず呼吸がしにくくなること) が出た場合には呼吸器が外れないと改善したとはまだ言えませんし、球麻痺 (喉の筋肉がうまく働かず、物が飲み込みにくくなること) が出た場合には、会話できたり食事できるようにならない改善したとはまだ言えません。
やはり症状が重い場合には数ヶ月単位から1-2年単位の長期のリハビリが必要になることがあります。
僕が医師になってまだ間もない頃担当させていただいたギラン・バレー症候群の方がとても印象的です。
詳しくは伏せますが、病院に来てまもなく診断・治療を行っても、筋力低下が急速に進行し、指一本動かせなくなり、呼吸器に繋がれ、栄養も点滴から入れざるを得ない状態となった患者さんがいました。
その後、次第に症状は改善してきて少し体が動くようになり、呼吸器も外れたのですが、 呼吸器をつなぐための喉の穴は塞げなかったため声は出ない状態でしたし、食事も胃ろうから入れた状態でした。
結局入院期間が長くなってしまったため、 リハビリの病院に移ることになりましたが、その後約半年音沙汰がない状態でした。結局、病院を移るときには、まだほとんど自力で動けませんでしたし、その方の声も聞けない状態でしたので、自分の無力さを強く感じたのを今でも覚えています。
しかし、半年後、杖も使わず歩いて「お久しぶりです」と僕の診察室に入って来たのは衝撃的でした。一瞬誰だかわかりませんでした。
このように、ギラン・バレー症候群は、時によくなるまでにかなりの長期間を要することがありますが、辛抱強く治療していくことによって、改善が見込める疾患です。もし身の回りにこのような方がいらっしゃったら、長くにわたって、支え続けることが重要です。
Source: 世界一わかりやすい医学 〜人工知能時代における医学情報の再定義〜
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