仕事の「匂い」

内科医

   もう10月も終盤,今年も年末年始にむけて超多忙な季節の到来となりました.

  さて,長年この仕事をやっていると,ありとあらゆる職業の人との出会いがあります.

  どの職業も,その仕事に長く従事してきたことによって培われる雰囲気とか匂いとでもいうものがその人に染み付いているようで,まさに環境や仕事が人を作るということを実感します.

  その中でも,何と言っても私と同じ医療関係者については,たとえ問診票の職業欄が空欄になっていても,同業種かどうかわかることが多いと感じます.

  医師や薬剤師や理学療法士などの場合はほとんどの場合職業欄を埋めてくれるのですが,どういうわけか看護師さんの場合は,往々にして空白のままのことが多く,それどころか,中には会社員とか公務員などと書く人もいる.まあ企業や公立の病院ならあながち間違いではないといえばないのですが(笑)

  ただ,当院のスタッフに訊いても,他の医療機関に受診するような時などは確かにあまり看護師であることは言いたくないとのこと,それは「これくらいのこと,看護師さんならわかりますよねえ」みたいな感じで接せられるのが嫌ということもあるようです.

  でも,やはりその「匂い」とでもいうべきものを完全に隠し通すことは不可能なようで,こちらも同じ世界にいる者の「勘」で,往々にして「見破って」しまいます.

  たとえば,病状について説明していると,妙に相槌よく頷くひと.なんか,そんなこともうよくわかってますよ,というサインのように見えます.

  そして言葉の端々に現れる「匂い」.

  どんな薬飲んでますか?と尋くと,「アムロ〇〇○5mgを朝夕錠分2で飲んでます」なんてややこしい薬の名前や飲み方をスラスラというひと.
  どの辺りが痛みますか?と尋くと,「右の側頭部です」というひと.
  痛いのは左右どちら側ですか?と尋くと,決して「りょうがわ」とは言わず,「両側(りょうそく)です」というひと.
  脈拍はどうですか?と尋くと,「すごく頻脈なんです」というひと.

  そんな答え方,素人は決してしません(笑)

  私    「ひよっとして,医療従事者ですよねぇ」
  患者   決まり悪そうに「はい」
  私    「看護師さんですか?」
  患者 「あっ,はい,まあそうです(^_^*)」

  こちらも,いつも通り心臓模型を出して,「学校で習ったと思いますが,心臓は4つの部屋から出来ていてですね~,云々」などと相手が素人だと考えて説明していたわけですが,循環器病棟に勤めている看護師さんだったりすると,「釈迦に説法ですみませんでした」なんて,こっちが謝る羽目になって,ものすごく混んでいるときなど,「それならしょーもない説明する手間が省けたのに,最初から言ってよ(>_<)」と言いたくなります(笑)

  まあその是非はともかくとして,患者さんと話をしながら,この人はどんな仕事をしているのだろうか,と推測するのもクイズみたいで楽しいものです.

  角刈りの頭に日に焼けて元気そうな顔つきの人だと大工さんだったり,長身に綺麗な斜め前髪のヘアスタイルと華やかなスマイルの女性だとキャビンアテンダントだったり,記録した血圧の推移や平均値をスマホのソフトで解析して理路整然と説明してくれるような人だと理科系の研究者やIT関係の技術者だったり,とイメージ通りのこともありますが,逆に,奇抜なヘアスタイルと服装であちこちにピアス,絶対にロックバンドか何かやってるだろうと思っていたら,意外にも料理人だったりで,人は見かけによらないなあ,などと感心したりもします.

  そして親しくなるにつれ,その人の仕事にまつわる話しを興味深く聞かせていただくこともあり,この世界にいるとつい狭小になりがちな視野を拡げてくれます.

  さて,明日はどんな仕事人との出会いがあるでしょうか(笑)


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Source: Dr.OHKADO’s Blog

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