■手術を受けるとなぜ腫れるのか?
人間の体が、細菌の侵入や物理的・化学的刺激などを受けると、その部位が赤くなって腫れ、熱をもち、痛みが発生します。この状態を炎症といいますが、これは傷を治すために起こる体の防御反応の一種です。
外科手術によって、体にメスを入れる行為も物理的刺激となり、手術を受けた部位には必ず炎症が起こり、赤み・腫れ・熱感・痛みが発生します。
この炎症症状のうち、術後のダウンタイム(施術してから回復するまでの期間)に最も影響を与えるのが「腫れ」です。
赤みや青あざなどは、メイクである程度カバーできますが、「腫れ」のみはカバーしきれません。
手術の中でも特に美容目的で行うものは、顔が多く、腫れている間は人前に出られません。病気で手術するのであれば、じっくり時間をかけて治療できるのですが、美容手術後に長期に仕事を休むわけにはいきません。少しでもダウンタイムを短くして、できるだけ早く社会生活に復帰したいというのが美容手術を受ける方の共通の願いです。
そこで、当院では極力腫れを最小限に抑えるための様々な工夫をしています。
■手術範囲が広いほど、手術時間が長引くほど腫れる
メスやはさみで皮膚や皮下脂肪などの組織を切ったり、剥がしたりすると、そこに傷が生じるわけで、傷ができると、体の防御反応で、炎症が起こり、浸出液がでてきて腫れてきます。
傷の範囲が広いほど腫れの程度も大きくなり、また、傷を受けている時間が長いほど腫れが強くなります。
ということは、手術の時に、組織を切ったり剥がしたりする範囲は必要最小限度にし、手術時間も短いほど腫れないということになります。
多くの手術症例を経験しているベテラン医師は、無駄な手術操作がなく、手術時間も短く、腫れが少ないのです。
しかし、経験の浅い医師は、小さな切開線からではうまく手術操作ができないので、どうしても長く大きく傷を開いてしまいます。皮膚を剥がす範囲も、必用最小限の加減がわからないので、無駄に広く剥がし過ぎたりして腫れの原因となります。また、手が遅いうえに、無駄な動きがあるので、手術時間が長引き、その間ずっと組織が傷つけられているのでさらに腫れが増大してしまいます。
当院で行っている美容手術の90%以上が、鼻の修正手術です。
プロテーゼなどの異物を鼻に入れて、いろいろなトラブルを抱えている方の修正手術を専門的に行っています。異物を抜いて、その代わりに自己組織を移植して、形を整える手術です。
側頭部から筋膜を、耳から軟骨を採取し、プロテーゼを抜いて、自己組織を細工して移植するという5つの操作をおこなう手術です。私は、25年以上この手術をライフワークとして行ってきて、担当した症例も相当な数に上りますから、1時間ちょっとあればこの手術が可能です。しかし、不慣れな医師が同じ手術をするとなると、2~3時間はかかると思います。筋膜や軟骨を採取する手術も慣れない医師では、出血も多くてとても時間を要します。
鼻の手術は外に傷跡を残さないように、鼻の穴の中を切開して、その小さな穴から手探り状態で行う手術ですから、経験と勘がモノを言います。経験の浅い医師は、プロテーゼを抜き取るだけでも時間を要し、何時間もすったもんだした挙句、結局抜くことができずに、当院に回されてきた例もありました。
■手術中に出血が多いと手術時間が長引き腫れが増大
手術の際に出血が多いと、止血する操作に時間がとられ、手術時間が長くなって腫れの原因となります。
そこで、出血を予防するために、局所麻酔薬の中にアドレナリンという血管収縮剤を加えたものを使用します。
教科書的には、このアドレナリンは注射後、5分ほど待てば止血効果が出ると言われていますが、その時間では不十分です。特に鼻は血管が豊富な部位なので、完璧にアドレナリンの効果を発揮させるには、私の経験上20~30分時間をおくのがベストです。
通常、鼻の手術は出血が多いので、吸引装置といって、掃除機のように血を吸い取ってくれる機械を使いながら手術しますが、当院の鼻の手術はほとんど出血しないので、この機械はまったく使いません。
■手術後の圧迫固定で腫れを抑えこむ
術後の腫れの原因としては、皮下に少しずつ血がたまってできる血腫もあげられます。この血腫を予防するためには、確実な止血操作と、術後の圧迫固定が重要になります。
鼻の手術後は、鼻全体に専用のテープを敷き詰めるように重ねて貼り付け圧迫固定します。この操作により、腫れを最小限に抑え、血腫を予防し、さらに皮下出血斑(青あざ)も予防する効果があります。
■腫れを予防する飲み薬
あとは、お薬の力も借りて腫れを予防します。通常、術後には痛み止めの薬を飲んでいただきます。当院ではロキソニンという薬を使用しますが、これは痛みを抑えるだけでなく、腫れを引かせたりや熱を下げたりする消炎作用もあるのです。
ロキソニンは飲んでから効果が発揮されるまでに30~60分程度かかりますので、当院では、予防的に、手術が始まる30分前に飲んでいただき、腫れや痛みを前もって予防します。術後も、痛い時のみに飲むのではなく、はやく腫れを抑えるために、決められた日数を最後まですべて服用していただきます。
■当院の鼻の手術後の腫れの程度
鼻の手術は一般的に、初回の手術が一番腫れます。もともと、何もないところに新たにトンネルを掘って、そこにシリコンを埋め込むわけですから、このトンネル工事が原因でかなり腫れます。
しかもその腫れは鼻だけでなく、手術で触っていない目の周りまで腫れてパンパンになる方が多いのです。
さらに、異物を埋め込むことで、その異物が原因で腫れが引きにくくなります。逆に自己組織は腫れを吸収してくれる作用があるので、自己組織移植の方が腫れは少ないです。
では、当院で手術を受けたモニターさんの写真で、どのくらい腫れないのかを実際に見ていただきましょう。
手術前の写真です。鼻にL型のプロテーゼが入っています。プロテーゼを抜いて、筋膜と軟骨を移植する手術をおこないました。
術後3日目の状態です。テープ固定をはずした直後です。鼻がうっすら黄色っぽく見えるのは皮下出血斑ですが、程度は軽いです。鼻と目の周りが少し腫れていますが、ほとんど目立ちませんせん。
術後7日目の抜糸後の写真です。軽い腫れはまだありますが、ほとんど目立ちません。
このように、当院の鼻の手術は、あまりにも腫れが少ないので、みなさんびっくりされます。初回の手術がとても腫れるものですから、それを経験している方は、鼻の手術は腫れるものだと覚悟していらっしゃいますが、当院の手術があまりにも腫れないので、逆に驚かれます。
■術後の腫れを最小限度に抑える5つの秘訣
以上をまとめると、こうなります。
(1)必要最小限度の手術操作を行い、組織を無駄に傷つけない。
(2)的確な手術操作を心がけ、できるだけ短時間で手術を終える。
(3)止血剤入りの局所麻酔薬を十分に効かせてから手術をスタートする。
(4)確実にテープ固定をし、腫れをしっかり抑え込む。
(5)消炎鎮痛剤を早めに服用し、決められた期間きちんと飲む。
このうち、特に重要な(1)と(2)は、医師の力量に大いに関係しますので、医師選びの際のポイントとなります。
手術を受ける際には、担当医師の経験年数や症例数を確認しましょう。大切な身体にメスを入れるわけですから、経験年数は20年以上、同じ手術の症例数は少なくとも500例以上はこなしているベテランの医師を選ぶのが理想です。
Source: Dr松下ブログ
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