糖尿病と遺伝[8] 遺伝子だけでは決まらない

健康法

ヒトの全遺伝情報解析により,わりと早く解明されるであろうという期待を裏切って,『糖尿病はどこまで遺伝に左右されるのか』という問題は,『遺伝学者の悪夢』として悩ませ続けています.

どれほど詳細に『糖尿病に関連する遺伝子』を調べても,それは糖尿病発症リスクをたかだか10%程度上げているだけとしか見積もれないからです.

エピジェネティクスではないか

このギャップに一筋の光明を投げかけそうなのがエピジェネティクス(Epigenetics)です.エピジェネティクスについては,簡明な解説があるので,こちらを見た方が早いでしょう.

より詳しくは こちらの本がおすすめです.

仲野徹 『エピジェネティクス』
(C) 岩波書店

遺伝子は同じでも

DNAには人体の遺伝情報がすべて収められています. しかしDNAに書かれているからと言って,それらがすべて同様に発現されるとは限らないのです. 住宅の設計図面には書かれていても,実際には施工されない箇所もあるというわけです. 手抜き工事のようですが,DNAに書かれている遺伝情報は相互に矛盾・相反するものもあるので,実際に遺伝情報通りに蛋白質が合成する時には適宜塩梅を調整されます.これがエピジェネティクスです.

たった一つの卵細胞から出発したのに,それらが分割・増殖するにつれて,皮膚細胞,神経細胞,骨細胞と全く違う細胞に分化していく,これらすべての細胞の遺伝子はまったく同じなのに,どうして違うものになるかを説明したのがエピジェネティクスです. Epi-は『後から』,geneticsは『遺伝』ですから,『遺伝の後に決まる』という意味ですね.

エピジェネティクスの典型例は,ミツバチの女王蜂と働き蜂です. 両者はまったく遺伝子が同じです.ただ集中的にロイヤルゼリーを与えられた幼虫だけが女王蜂時になります.

ON/Offを使い分ける

仮にこういうDNAがあったとします.ここには遺伝情報としてこう書かれています.しかし,この遺伝情報がいつもすべて使われるわけではありません.

エピジェネティクスとは,この遺伝子にスイッチ付の窓がついており,どのスイッチをON(=窓を開ける)にして,どのスイッチをOff(=窓を閉じる)か[★]によって,遺伝子が発現する/しない を調節する仕組みです.

[★]『窓の開閉』= DNAのメチル化やヒストン修飾のことです.詳細は上記の本を参照願います.

そこで,エピジェネティクスの仕組みで,発現させるもの/発現させないものがこうなったとしたらどうでしょうか?

あるいは,こんなことも起こり得ます.

納豆ご飯
(C) まるうさん
甘納豆
(C)涼風さん

両者はまるで違います.一方は おいしい和菓子ですが,他方は [ピーーッ] です. しかしどちらもDNAは同じです.

双生児であっても

一卵性双生児は,生まれた時から死ぬまで まったく同じ遺伝子を持ったままの一生です. ところが二人の遺伝子の変化を追跡してみると;

一卵性双生児の生涯におけるエピジェネティックな相違[PDF]

一卵性双生児のA,Bは3歳の時点では まったく同一でしたが, 50歳の時点では Bさんはまるで別人といえるほど変化しています.二人の50歳までの環境の違いによりここまで変わってしまったのです.
ただしBさんの遺伝子が変化したのではありません. 50歳の時点でも 二人のDNAはまったく同じです.ただ 上図の窓の開け閉めの具合がまるで違ってしまったというだけです.

糖尿病とエピジェネティクス

糖尿病の発症を古典的遺伝学や DNA解析結果だけで説明できないのは,このエピジェネティクスの効果,つまり『環境が遺伝子発現に影響している効果』が大きいからではないのか,とする説は 最近強く提唱されるようになりました.その可能性は大です.ただし,まだズバリとそれを証明した報告は出ておりません.

[9]に続く

Source: しらねのぞるばの暴言ブログ

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