小児輸液のトリセツを読みました。
前半の「ナトリウム量」に注目しがちですが、後半の「ナトリウム濃度」も秀逸でした。
今日は、小児輸液のトリセツの感想を書きます。
ナトリウム量
本書の前半のポイントは「ナトリウム量」です。
「ナトリウム量」という言葉はそれほど一般的ではないように思います。
医中誌で検索すると65件ヒットしますが、本書と同様の意味で使っているのは3件だけだと思いました。
でも、2009年のレジデントノートにも記載されていますし、輸液の世界での歴史はそこそこ長そうです。
ちなみにレジデントノート内では「体液量」という言葉で置換されていました。
本書の前半は「ナトリウム量」の重要性について記載されています。
面白いのが「ナトリウム量とは何か」という疑問に対する直接的な答えがないままに本書が進む点です。
ちょっとしたミステリーです。
もちろんヒントはあります。
- ナトリウム濃度とは独立する。
- バイタルサイン、身体所見、病歴、血液検査によって総合的に評価される。
- ナトリウム量不足による脱水は「volume depletion/hypovolemia」という。
これらのヒントから、私は「ナトリウム量とは循環血液量のことである」という仮説を立てました。
実際はちょっと違うのでしょうが、「ナトリウム量=循環血液量」として本書を読み進めていくと、すんなり腑に落ちる部分がたくさんありました。
循環不全を「脱水」に絞る
輸液の対象を「脱水」に割り切っている点もよいなあと思いました。
実際は脱水に対してでなく、循環不全に対して輸液するイメージが私にはあります。
脱水は循環不全の原因の一つです。
アナフィラキシー、敗血症、心筋炎、緊張性気胸なども循環不全ですが、これらは通常脱水がありません。
つまり、ナトリウム量が正常な循環不全に対しても、輸液は重要な治療選択肢となります。
本書は、脱水以外の循環不全を潔く切り捨てています。
コラム的に解説がある程度であり、そのバランスも素敵です。
本当はあらゆる循環不全について書きつくしたかったのだと推察しますが、分かりやすさを優先させ、あえて循環血液量減少性ショックだけに焦点を絞ったのでしょう。
清々しくて、かっこいいです。
ナトリウム濃度
後半は一変して、手取り足取りという印象を受けました。
「ナトリウム濃度」に対する介入が、丁寧でとても分かりやすいんです。
3% NaClの作り方を記載できるのは、実際にベッドサイドで輸液療法をしているからこそ書けることです。
ここで重要なのは、作り方を知っていることではなく、作り方を知っていることが重要だということを知っていることです。
本のスペースも、インプットできる知識量も有限です。
ですから、記載する価値があることを取捨選択して書籍にする必要があります。
必要な知識を選ぶには、豊富な臨床経験が必要です。
おかげで、多くのTIPSを含む「トリセツ」が成立しています。
分厚くないのに、痒い所にまで本当に手が行き届いています。
まとめ
本書は前半の「ナトリウム量」につい注目してしまいますが、後半の「ナトリウム濃度」もとても秀逸です。
前半部はPALSでもシステマティックに学習できますが、後半についてはPALSでは学習できません。
教育機会に恵まれないという点で、後半の「ナトリウム濃度」についてのほうが、さらに価値が高いと思います。
小児科医である限り、低ナトリウム血症、高ナトリウム血症に遭遇しないということはないでしょう。
今までは幸運にも「なぜか自然に治った」かもしれませんが、今後も幸運が続くとは限りません。
本書はナトリウム異常を詳しく分かりやすく解説した、すばらしい一冊でした。
Source: 笑顔が好き。
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